丁寧に考えれば考えるほど、手が止まる――。仕事が早いのに的確な人だけが持っている「思考」を公開。

仕事が早い人と遅い人 たった一つの思考の違い

「仕事のスピードが遅い」「なかなか着手できない」「急いでやろうとしてミスばかりしてしまう」……。そんな悩みを抱えている人も多いと思います。一方で高い所得や付加価値を生み出しているビジネスパーソンは、総じて行動が早く、物事を素早く片付けていきます。「仕事が遅い人」と「仕事が早く高いパフォーマンスを出している人」は何が違うのでしょうか。「仕事が早い」ことは生まれ持った才能ではありません。習慣やトレーニングによって身につくものです。そして「仕事が早い人」に共通するのは、あれこれ考えすぎないということです。すべてを丁寧に考えるのではなく、「本質の部分だけを考えて、余計なことは考えない」ことを実践しています。一般的に「仕事の早い人」になるためには、「とにかく手を動かせ」「完成度は低くてもいいからたたき台をつくれ」というアドバイスがよくされてきました。しかし、生成AIが70点の回答を一瞬で出せるいま、「とりあえず手を動かす」ことの希少価値は急速に下がっています。これからの時代に求められているのは、標準的な70点を超えて、人間がやるからこそ出せる90点のクオリティを実現することです。そのために必要なのは正しい「思考」であり、「問い」です。

仕事が遅い理由として「考えすぎて動けない」と感じている人も少なくないでしょう。しかし、この人たちは本当に“考えている”のでしょうか。たとえば、企画書を前にして手が止まっている人の頭の中を見ると、「上司にどこを突っ込まれるだろうか」「こんなものを出して浅いと思われないだろうか」といった問いがぐるぐる回っていることがあります。こうした問いには共通点があります。主語が「仕事」ではなく「自分の評価」になっていることです。仕事をどう進めるかではなく、「それを出した自分がどう見られるか」を考えているのです。私はこれを「自己防衛の問い」と呼んでいます。「自己防衛の問い」に頭を占領され、自分を守るためにどうすればいいかばかりに思考リソースを奪われているため、いつまで経っても仕事に着手できないのです。

心理学では、同じネガティブな考えが頭の中で繰り返しループする現象を「反芻思考(rumination)」と呼びます。イェール大学の心理学者スーザン・ノーレン・ホークセマの研究によれば、反芻思考は問題解決を助けるどころか、意思決定を遅らせ、行動の質を低下させることがわかっています。自己防衛の問いは構造的に答えが出ないため、いつまでも準備中から抜け出せず、着手を止めるブレーキになってしまうのです。この思考こそが、いち早く捨て去るべき「余計なこと」の正体です。

一方で、仕事が早い人は、自分の評価を気にする時間が驚くほど短いのです。彼らは自己防衛の問いを、仕事を前に進めるための「要件定義の問い」に差し替えています。たとえば、次のように問いの主語を「仕事のコンテクスト」へと変換するのです。

・ 「突っ込まれないか?」→「決裁者の期待することは何か?」
・ 「浅いと思われないか?」→「なぜこの目的の達成が困難なのか?」
・ 「間違っていたらどうしよう?」→「何がわかれば次に進めるか?」

仕事の初手がつまるときは、目的や前提条件などの言語化が足りていないことがほとんどです。仕事が早い人は「いま言語化できていない前提は何か?」と問いを立て、プロジェクトの攻略条件をいち早く明確にすることに思考を集中させています。

厄介なのは、「とりあえずたたき台をつくったやつが偉い」という精神で、要件をろくに言語化しないまま作業を進めてしまうことです。これでは的外れでクオリティの低いアウトプットになり、手戻りが発生してしまいます。

これは生成AIの使い方も同じです。要件定義が曖昧なまま「いい感じにつくって」と投げてしまうと、的外れな回答しか返ってきません。背景情報や目的などの前提条件(プロンプト)を的確に言語化してこそ、質の高いアウトプットが得られます。人間がやるべき仕事もまったく同じ構造なのです。

「早く手を動かすこと」ではなく、「何を考えるべきか」を正確に選び、要件定義の問いを立てること。自分の見え方といった「余計なこと」は手放し、攻略条件を言語化するという「本質」に100%の思考を注ぐことをおすすめします。

【図表】

ここで役に立つのが拙著『静かな時間の使い方』で提唱した「創造的怠惰」というマインドセットです。創造的怠惰とは、外部からの期待に対して過剰に「応えすぎない」ようにブレーキをかけ、主体的にあえて“サボる”ことで、自分自身の思考リソースや創造性を回復する技術を指します。他人の顔色を窺い「期待に120%で応えよう」とする自己防衛を手放し、他者への反応を「及第点」にとどめる戦略的な「サボり」を取り入れることで、かえって本質的な「要件定義」に集中するための余白が生まれるのです(上図参照)。つまり、本当に仕事が早い人とは、他者からの期待に追われる「受動的な働き方」を一時停止し、主体的に「あえてサボる(立ち止まる)」ことで、仕事の流れを自分起点に整えられる人なのです。

(構成=向山 勇)