集客イベントが功を制して経営危機を脱出

大好きで、いろんな人との出会いがあった、お世話になっているラーメン店。「絶対にやめて欲しくない」と思った須田さんは、同世代の常連仲間と一緒に「経堂系ドットコム」という街応援のためのWebサイトをつくり、ネットの力を駆使しながらリアルイベントで店を盛り上げた。

たとえば「からから亭」では、毎週月曜日のキャッシュオン制のバルイベントの実施。3年間150回連続での開催に、20代~30代の若い世代のたくさんのお客さんが集まり、その1~2割が常連になり店を支えるようになった。

「いろいろな集客イベントが功を奏して、『からから亭』は経営危機を脱することができました」

須田さんたちの活動はその後拡大し、より幅広く地域の個人店を応援するようになっていった。

落語文化と醸造文化で人がつながる街

経堂には伝説の地域寄席と呼ばれる「経堂落語会」というイベントがあった。1979年(昭和54年)から1989年(平成元年)まで行われたもので、商店街の店主たちが世話役を引き継いできた。過去の根多帳をひもとくと、柳家小さん、柳家小三治、桂歌丸、春風亭小朝などの名前などがある。

さばのゆ名物の落語会。ルーツは「伝説の地域落語会」といわれる「経堂落語会」。商店街の店主たちが世話役を引き継いできた。

「最初の頃はお寺が会場でしたが、その後、2000年代になって僕が引き継ぐようになって、『塩原湯』という銭湯でも開かれるようになりました。落語会にはたくさんの人が集まる。集まった人たちが笑って幸せになった後、近所の飲食店に流れる。そこで会話や出会いが生まれて、人がつながっていく。経堂という街にはそういう“集い、つながる”文化がありました」

また、近隣には東京農大があり、醸造学科には全国の酒や醤油・味噌・(こうじ)などの蔵元の後継者たちが毎年おおぜいやって来る。

「そういう地方出身の学生さんが、経堂の飲食店でアルバイトをする。アルバイトと店主、あるいはお客さんとのつながりは、彼らが地元に帰ったあとも長く続いていきます」

須田さんたちは、人と人が出会うことでできたつながりを大切に、さまざまな企画を立ち上げていく。農大卒業後に全国に散らばった生産者たちと商店街の個人飲食店を結び、共同でメニュー開発を行ったり地方の食イベントを実施したり。

撮影=栗栖誠紀
さばのゆ店主の須田泰成さん。これまで開催されたイベントは落語会、ライブ、トーク、地域の食の会、演劇ワークショップなど、1500回以上。

また、界隈のいろいろな場所で落語をはじめ、演劇、朗読、音楽、交流会などのイベントを企画・実行していった。

「経堂エリアにインバウンドを!」という意識が常に活発な行動を支えた。