ゆるやかな場だからこそ、ルールとマナーが欠かせない

定期的に開催されるさまざまなイベントのひとつに「バー(またはスナック)○○」という人気シリーズがある。いろいろな方が一夜限りのマスターまたはママになってカウンターに立つ。コの字型のカウンターを囲んでの会話はいつも、和やかに盛り上がる。

ゆるやかな雰囲気と時間を守るためのルールとして店内にはいくつかの禁止事項が掲げられている。「説教・マウント」「セクハラ・パワハラ」「SNSナンパ」「からみ酒」はどれも「出禁萬円(一発退場)」。他にも、大きな声を出したり他人の会話に割って入ったりするような行為はNGだ。

いくら酔ってもダメなものはダメ。からみ酒、SNSナンパ、セクハラ・パワハラ、説教・マウントは一発退場という厳しいルール。

年配の男性でウンチクなどを話しはじめたら止まらない人もいるが、誰か1人が話し過ぎることで同じ時間に「さばのゆ」にいる他のお客さんの時間を奪ってはいけないので「自分ばかり話すのではなく、ほかの人の話も聞きましょうね」と伝えるようにしている。時には怒り出す人もいるが、冷静に淡々と繰り返し伝えれば、もめごとになるようなことはないという。

「僕が最優先で大事にしたいのは、すでに店に来て和んでいるお客さんたちがのんびり平和に過ごせること。僕自身の感情は関係ないんです」。

近所のお店に回遊する“お客サバ”

店にいる客の居心地を気遣い、徹底して優先する。「お客さんが自分たちは守られていると感じられることが大事です」。一方で店主である須田さんが常連さんに守られている面もあるという。「ミクロレベルの人体の免疫システムやアマゾンの生態系でも同じようなことが起こっているんじゃないでしょうか。共存共栄ですね」。

「さばのゆ」のイベントは、店のホームページでかなり先の予定まで発表されている。定期的に行われているものもあれば、お客さんとの出会いから突発的に生まれることもある。須田さんはイベント終了後に「さばのゆ」を出てお客さんと一緒に商店街の別の店に繰り出すことも多い。

「おかげさまで、さばのゆには良い“お客サバ”が集まる。だからイベント終了後はさばのゆで飲み食いするよりも、ご近所のお店に回遊して、お金を使って、その店の店主や常連客とふれあって、じわじわ経堂に馴染んでこの街の常連になってほしい。自分の店だけが大事という考え方の飲食店が一時は流行るが数年で消えていくのを見てきました。

店は、単体で存在しているのではなくて、経堂という街に支えられ、互いに支え合っているんです。そういう意味で人情味のある商店が成り立つ仕組みは里山の動植物の生態系に似ているかもしれない」。

*さばのゆの営業スケジュールはこちらから:https://sabanoyu.oyucafe.net/schedule

須田泰成(すだ・やすなり)
さばのゆ店主
植草甚一に憧れて移り住んだ東京、世田谷区経堂で、イベント酒場「さばのゆ」を開業。周辺のコミュニティを巻き込んで、全国の地域・産業の活性化を行っているプロデューサー。コメディライターとしても長く活動。テレビ・ラジオ番組の企画・構成の他、広告制作などの仕事も多数。著書に『モンティ・パイソン大全』、絵本『きぼうのかんづめ』『蘇るサバ缶』などがある。
 
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