【俣野】僕も似たような意見を持っています。これからの時代は、すべてのサラリーマンが独立することを前提に毎日仕事をするべきだと思うんですよ。実際に独立するかどうかは別として、気持ちのうえではいつもそう思っていたほうがいい。そういう気持ちで働いていれば、会社のリソース(資源)に対して、ものすごく興味が湧いてくるからです。ほかの部署はどうやってるんだろうかとか、先輩は今どんな仕事してるんだろうとか、同僚とほかの部署を訪ねてみようかとか考えるようになる。

【弘兼】それは大切ですね。特に大きな組織であればあるほど、自分の部署の前年同期比を上げることばっかり考えるようになって会社全体を俯瞰する力がなくなるんですよ。そうじゃなくて、今自分のいる会社は世界でどういう仕事をしていて、上から見て自分はどういう位置にいるのかを見ないといけない。そういう全体的な視点がないと、たとえば与えられた売り上げ目標を頑張って達成したけれど、出した利益より使った経費のほうが多かった、というようなことが起きてしまう。

たとえば音楽業界などでは、アーティストとかディレクターとかみんなでロスに行ってスタジオ録音しましょうという話になる。でもそれはみんな海外に行きたいから言ってるだけだったりする。もちろん向こうのスタジオミュージシャンが優秀だったりして、多少はいい音が録音できるかもしれない。でも完成した作品が多少売れたところで、渡航費や飲み食いした経費がすごく多かったら、結局黒字になっていないことも少なくない。それでは意味がありません。たとえ小さな部署にいても、常に自分が経営者になったつもりで考えないといけない。

【俣野】自分が将来社長になろうとか、独立しようという気持ちがあれば、その辺りのことは冷静に見られますよね。

【弘兼】サラリーマンの頭のなかには、自分はずっと雇われるものだというマインドが抜きがたくあるかもしれませんが、「たまたま今は会社に所属してるけれど、本来の俺はフリーの事務屋なんだ」くらいの気持ちでいたほうがいい。よく「自分は今までこれだけの実績を残してきたから、独立すれば絶対に成功する」と思って独立する人がいます。でもその大半が失敗してしまうでしょう。あれは会社の力を自分の力だと錯覚してしまうから。今まで成功していたのは会社の看板のおかげなんです。

※この記事は書籍『プロフェッショナルサラリーマン 実践Q&A編』からの抜粋です。

俣野成敏(またの・なるとし)●1971年、福岡県北九州市生まれ。1993年、東証一部上場のシチズン時計(株)入社。安息の日もつかの間、30歳の時に半世紀ぶりの赤字転落による早期退職募集の対象になる。ダメ社員には転職や起業の選択肢もないことを痛感するとともに、退職を余儀なくされた年配者が自分の将来と重なり一念発起。2002年、経験や人脈の一切を欠く状態からアウトレット流通を社内起業。老舗企業の保守的な逆風の中、世界ブランドが集う施設で坪売上上位の実績を積み、30代で年商14億円企業に育てあげる。2004年に33歳でグループ130社の現役最年少の役員に抜擢。2011年にはメーカー本体に帰還、40歳で史上最年少の上級顧問に就任。同年出版した著書『プロフェッショナルサラリーマン』(プレジデント社)は、翌年10月に出版された図解版と合わせてシリーズ累計11万部のベストセラーとなる。amazon.co.jpの2012年間ランキング(ビジネス・自己啓発)で33位に入賞。2012年6月、独立。複数の事業経営の傍ら、大学生や社会人を応援する活動をライフワークにしている。 http://www.matano.asia/
(構成=長山清子 写真=上飯坂真)
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