会社は利益を出さなければつづけられない。日本をベースにしながら、世界各地での「社会貢献」のために10のビジネスを進めている株式会社がある。昨年度の売上高は約33億円。田口一成社長は、あくまでもビジネスとして貧困問題に取り組もうとしている。その狙いはどこにあるのか。ジャーナリストの田原総一朗氏が聞いた――。

ボランティアでは問題は解決しない

【田原】田口さんは早稲田大学のご出身ですね。どんな学生でした?

【田口】授業にろくに出なかったですね。みんなで朝まで飲みながら哲学や経済の話をして、夕方まで寝るという生活でした。

【田原】経済と哲学、どっちが好きでした?

【田口】哲学かな。専門的に勉強したわけではないですが、いろんな本を読み漁って友達と議論していました。

【田原】たとえばどんな本ですか。

【田口】印象に残っているのはロマン・ロランの『ベートーヴェンの生涯』です。「人生、悩み苦しむときほど実り豊かで幸福なことはない」という一節が出てくるのですが、自分の道を探して悶々としていたときだったので、勇気づけられました。

【田原】自分の道を探していた?

【田口】せっかく福岡から東京に出てきたので、何者かでありたいという気持ちはありました。でも、自分の人生を捧げられるテーマが見つからず、ずっと探していた感じです。

【田原】大学2年生のころ、栄養失調になったアフリカの子どもをテレビで見て、これだと思ったそうですね。

【田口】恥ずかしながら、そのときはじめて世界に貧困に苦しむ人がいると知りました。これは日本に生まれた自分の人生を懸けるだけの価値があると思い、途上国の支援をしている団体に話を聞きにいきました。

【田原】ボランティア活動ですか?

【田口】そのつもりでした。でも、あるNGO職員の方からこう教えてもらったんです。「自分たちの活動は寄付に支えられているが、やっているのは波打ち際に砂山をつくるようなもの。つくっては波に消され、またつくって消されるという繰り返し。本気で貧困問題を解決したいなら、お金もコントロールする力を持たないといけないよ」と。それを聞いて、自分はビジネスでアプローチしようと考えました。売上高1兆円の企業をつくって1%を寄付したら、毎年100億円出せる。安直ですが、貧困を解決するにはそれが近道だとそのときは考えました。

【田原】ビジネスするために何をしたんですか?

【田口】1年間休学して、ワシントン大学に留学しました。ビジネスなら、なんとなくアメリカかなと(笑)。