アメリカに行った一番の目的

【田原】ビジネスは学べました?

【田口】大学のある授業では1日何十ページも読んでこいっていわれます。最初は真面目にやっていましたが、日本語なら30分で読めるものを3、4時間かけて読むのがばからしくなって結局授業に行かなくなりました。

【田原】それじゃアメリカに行った意味がないじゃない?

【田口】アメリカに行った一番の目的は、ビジネスプランを決めること。大学のあるシアトルはカフェの街でした。それをヒントに、貧困農家から仕入れたフェアトレードティーの店をやろうと考えました。シアトルの茶葉商社やレストラン経営者に「日本に帰ったらこういうことをやりたいから勉強させてくれ」とプレゼンして回り、茶葉のブレンドなど修業させてもらいました。

【田原】留学は無駄ではなかったわけね。それからどうしました?

【田口】帰国後はベンチャーキャピタルを回って開業資金を集めました。資金を出してくれるところが1社見つかりましたが、担当の方は「理念はわかるけど、品質の安定性や価格を考えると、最初は商社から買ったほうがいい」と言う。自分は貧困農家との直接取引にこだわっていたので、結局話はまとまりませんでした。

【田原】開業しなかった?

【田口】はい。ティーカフェは断念して、一度就職することにしました。最終的には意見が分かれたものの、ビジネスのプロの指摘に説得力があったこともたしかです。自分にはビジネスの経験が圧倒的に足りない。2~3年働いて実務を学びたいと思って、ミスミで働き始めました。

【田原】ミスミは何の会社ですか?

【田口】カタログ通販の会社です。一般的な会社は開発や販売など部門が分かれていますから、最初に営業に配属されると、3年は営業しかできなかったりします。一方、ミスミは1つの小さなチームで、商品開発から販売、物流、コールセンター管理まで、ビジネスの川上から川下まで経験できるので勉強するにはもってこい。面接で「3年で辞める」と言って入社しましたが、短期間でいろいろ学べたので、実際は2年で辞めて独立しました。25歳のときです。

【田原】ティーカフェで独立ですか?

【田口】いや、まずは資金づくりをしようと考えていたので、業種にはこだわりませんでした。たまたま不動産屋さんが集客で困っているのを知って、不動産賃貸の一括見積もりサービスを始め、それから発展させて無店舗型の賃貸仲介もやりました。