バングラデシュで革製品をつくる
【田原】そこから社会起業に舵を切ります。きっかけは何ですか?
【田口】不動産仲介をやっていると、外国人のお客さまからの問い合わせがけっこうあります。ただ、部屋を仲介しようとすると、大家さんが「外国人はルールを守らない」「臭いが気になる」と言って拒否をする。とくに困っていたのは留学生です。会社勤めの外国人は会社が契約者になってくれるのでまだいいのですが、留学生はそれも難しく、先輩の部屋に転がり込むしかない。ドアを開けたら外国人が10人いたという話をよく聞きますが、彼らが望んでそうしていたわけじゃないんです。
【田原】それで?
【田口】僕らが部屋の借り主になって契約し、又貸しする形なら、大家さんも説得できる。ただ、単に又貸しするだけではおもしろくありません。日本語学校に話を聞きにいくと、日本人と友達になりたいという声がとても多かった。そこで、日本人と外国人が一緒に暮らすシェアハウスをつくりました。
【田原】大家さんをどうやって説得したんですか。
【田口】いくら説明しても、嫌がる大家さんには「日本でも昔は下宿して1つ屋根の下でみんなが切磋琢磨して暮らしていた。アパートで一人暮らしするいまの時代のほうがおかしいでしょう」と説得しながら、少しずつ増やしていきました。
【田原】ハウスはいくつつくったの?
【田口】1年間で20~30ハウスをオープンさせました。住むのは1軒で8~10人。日本人と外国人は半々で、多国籍なコミュニティーをつくっています。
【田原】1軒つくるのに、どれくらいかかりますか。
【田口】仲介手数料、敷礼金、備え付けのベッドや冷蔵庫を入れると、1ハウス250万~300万円かかりました。10ハウスは稼働させないと社員の給料が払えなかったので、最初に2500万~3000万円は必要でした。当時は金融機関がベンチャーにお金を貸してくれない時代。親戚に借りても足りず、社員の親からも借りてやりくりしてました。
【田原】いまは何ハウスくらい?
【田口】東京、大阪、京都、韓国、台湾、全部合わせて125です。
【田原】実際に運営してみて、どんな点が大変ですか。住民同士がケンカしたりしませんか?
【田口】多少は何かしらありますよ。でも、それがいい。むしろ部屋の掃除をした、しない、皿を洗う、洗わないといった小さなところに違いが出るので、異文化を理解するいいきっかけになると思っています。
【田原】シェアハウスを皮切りに、ソーシャルビジネスをいろいろ展開される。たとえばバングラデシュに工場を建てて財布などの革製品をつくっている。これはどういう経緯で?
【田口】日本で、あるバングラデシュ人から相談を受けました。彼の雇い主は給料を払わず、ビザも切れかけていた。結局、彼は自分で事業をやることになりましたが、事業の中身は未定。とりあえず僕が最初のお客さんになろうと、バングラデシュ視察のアテンドを頼みました。初めて訪れたバングラデシュは、想像以上に貧しかった。何とかしなくてはと始めたのが、革製品の事業です。