世界の社会起業家の成功の輪をつくる

【田原】田口さんは、ぜんぶの事業にそんなに情熱を持ってるんですか?

【田口】それぞれの事業は各社長に任せています。というより、この事業で社会を変えたいと言ってきた社員に事業を立ち上げさせます。入社半年でミャンマーに飛び、昔の生協と同じシステムで僻地の村に物資を届ける事業を立ち上げた社員もいる。僕は彼らのプランに、ビジネスの視点から肉付けしていくだけです。

【田原】社員は会社を利用して自分がやりたいことを実現させるわけだ。

【田口】僕らの入社試験は、やりたいことありき。会社がやりたいことのために必要な人を雇うのではなく、本気でやりたいことがある人を集めて、彼らに会社のリソースを使ってもらえばいい。すでに自分でソーシャルビジネスをやっている人が僕たちを利用してもいいと思ってます。

【田原】どういうこと?

【田口】今年7月、ケニアで活動しているアルファジリという会社がグループ入りしました。この会社は、大豆の栽培指導から物流網の整備、買い取りまで行って、大豆農家を育てようとしています。

【田原】なぜ彼らはわざわざグループに入ったの?

【田口】自分のアイデアを世界中に広げるためです。社会起業家たちは自分がつくり上げた事業で、一人でも多くの人を助けたいと思っていて、世界中に広げたい。でも、そこに見知らぬ人がやってきて「いいモデルですね。私もエチオピアの人を助けたいからそのノウハウを教えて」と言ったらどうなるか。さっきまで一人でも多くの人を救いたいと言っていたのに、見ず知らずの人にタダで教えるわけにいかない、と一転します。それが人間です。一方、教えを請いにきた人も「純粋に貧しい人を助けたいと思ってきたのに、結局お金か」と憤慨してしまう。世の中には、いいソリューションが実はたくさんある、でもそれが広がらないのは、ここに壁があるからです。

【田原】どうすればうまくいく?

【田口】みんなが身内になればいいんです。たとえば、弟が兄に教えを請うても、普通はお金を取りませんよね。では、どうやって他人同士を身内にするのか。それには財布を一緒にすればいいというのが僕の考え。アルファジリがグループに入れば、社会をよくしたい社会起業家たちとお金とノウハウのすべてを共有でき、このネットワークから解決方法を世界に広げていくことができます。グループメンバーが広げた先で出た利益は、また同じみんなの財布に戻ってくる。それを使って自分はまた新たな事業を起こす。こうして、世界のある起業家が考えた社会ソリューションが瞬く間に世界に広がっていく。それが僕らの考える社会変革のアプローチです。

【田原】ソーシャルビジネスのプラットフォームをつくる。おもしろい。ぜひ頑張ってください。

田口社長から田原さんへの質問

Q.日本人が世界平和のためにできることは何ですか?

自衛隊は憲法で縛られて戦えない、格好だけの軍隊です。だから僕はいいと思う。太平洋戦争の開戦前、日本が勝てると思っていた専門家はいませんでした。海軍連合艦隊司令長官の山本五十六は、「やれといわれれば半年や1年は暴れてみせる」といった。つまりそれ以上長引くと負ける自覚があったのです。負け戦でも、戦えるものなら戦いたい。それが軍人の習性。だから、戦えない軍隊のほうがいい。

かといって、憲法があれば他国は攻撃してこないという考えも甘い。日本人はこれまで国を守ることを本気で考えてこなかった。上空を北朝鮮のミサイルが通って、やっと危機感を持った。これからしっかり向き合うべきです。

田原総一朗の遺言:国を守ることを本気で考えろ

(構成=村上 敬 撮影=宇佐美雅浩)
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