電気自動車(EV)への期待が高まっている。人気を牽引するのは米テスラだ。イーロン・マスク社長は「水素はバカだ」と公言し、未来のクルマといわれた燃料電池車(FCV)を攻撃する。しかしモータージャーナリストの清水和夫氏は「攻撃するのはテスラにとって一番厄介な敵だから」という。清水氏と元朝日新聞編集委員の安井孝之氏の「EV対談」。第3回をお届けします(全5回)。

恐竜を絶滅させた隕石のような存在

【安井】最近の電気自動車(EV)への傾斜は欧州での排気ガス問題が一つのきっかけでしたが、もう一つの要素として、イーロン・マスクのテスラの動きが自動車業界に刺激を与えていますね。

【清水】テスラは恐竜を絶滅させた隕石のような存在です。それほど衝撃を与えています。

7月28日、テスラ「モデル3」納入開始を発表するイーロン・マスクCEO。(写真=AFLO)

【安井】そもそもテスラはどんな会社ですか。

【清水】テスラが人気なのはEVだからではないと思います。クルマとしてセクシーで魅力的だからです。実は2000年代初頭、テスラは英国のスポーツカーメーカー、ロータス・カーズにボディ、サスペンションなどを作ってもらって、バッテリーだけを自分たちで調達して、EVのスポーツカーを出したんです。ところがこれは少数の好き者しか買わなかったのですが、そこにものすごい大きなチャンスが訪れた。ゼネラルモーターズ(GM)の破綻です。

【安井】GMとトヨタがカリフォルニアに合弁でつくった「NUMMI」の工場閉鎖がGMの破綻で決まりましたね。トヨタも困りました。

【清水】そう。雇用問題がある。簡単に従業員は切れない。そこにテスラがその工場を買うよ、と申し出た。トヨタは雇用を守ってもらうという条件で工場をテスラに売りました。テスラは約38億円という安い値段で工場を買ったと言われています。テスラにしてみれば、トヨタが地ならししたトヨタ生産方式の工場を丸ごと買えたんです。

テスラに吹いた「3つの神風」

【安井】テスラにとってはラッキーなことでしたね。

【清水】それがテスラに吹いた1つ目の神風。一方、パナソニックはバッテリーを提供すると言い出した。日本メーカーなので信頼性はある。これが2つ目の神風ですね。それでモデルSを作ったら見事にバカ売れ。シリコンバレーとかフロリダとか富裕層がいる地域で高級級車がテスラのモデルSに切り替わっていきました。このときはトヨタもテスラの経営手法に興味津々だったので、テスラの株を10%買って、RAV4 EVを作ってもらった。メルセデスベンツも興味があるので、ちょっと株を買ってみた。そのときにエンジニアがテスラに移動したり、メルセデスと同じ部品を使うことで色々と協力した。それが3つ目の神風です。