弘兼憲史
漫画家、『島耕作』シリーズ作者
俣野成敏
起業家、『プロフェッショナルサラリーマン』著者
【俣野】上司との悩みがある一方で、自分がだんだん偉くなっていくと、今度は部下をどう扱っていいかわからない、叱れないという悩みも多く寄せられました。
【弘兼】僕は叱らずに徹底的にほめることにしています。A君という人がいて、彼は全体の3割はすごくいいんだけど、あとの7割が全然ダメだとしましょう。でも僕はこういう場合でも絶対に叱らない。3割のいい部分をほめてあげます。本当は「君、ここを何とかしろ」と言いたいんだけれど、「ここ君、うまいじゃないか」と言う。するとA君はものすごくやる気を起こして頑張るので全体が底上げされる。するとダメな部分まで持ち上がってきます。逆にダメなところを直せとうるさく言ってると、いい部分まで沈んでしまう。
【俣野】僕もそう思いますね。やっぱり凸凹があるのが組織であり、各人のいいとこ取りをするのが組織の妙味でしょう。今の若い世代はほめると調子に乗るとか、扱いにくいという声もすごく多かったんですが、どれだけいいとこ取りができるかが上司の力量なのかもしれないと思っています。
【弘兼】ほめて調子に乗るなら、乗らせておけばいいんじゃないですか。調子に乗って周りの人を小バカにするようだったら注意すべきですが、そうでなければ、やっぱりやる気を出させるのが一番ですよ。上司の仕事はいかに部下にやる気を起こさせるかが勝負です。
【俣野】上司って自動車教習所の教官のようなもので、生徒が運転する車がぶつかりそうになったときにブレーキを踏むことはできても、代わりにアクセルを踏むことはできない。その点、調子に乗っているということはやる気になっているということですから、調子に乗るなら好きなだけ乗ってくれたほうがありがたい。止まった車のエンジンをかけるよりも走っている車をチョイチョイと抑えるほうが簡単ですから。
ところで島耕作はずっと1つの会社でヒラから会長までを一通り経験しますが、これからのサラリーマンの働き方は、やっぱり変化していくでしょうか。
【弘兼】終身雇用は確実に過去のものになるでしょうね。大学を出てある会社に入って、そのまま定年まで勤め上げる人はたぶん3割以下になるんじゃないでしょうか。会社そのものがなくなる可能性もありますし、転職する人も増えてくる。途中で会社を替わる人がほとんどになるんじゃないかと思います。そうなると転職に備えて、ゲームで言えばいろんな武器となるアイテムで自分の身を固めていかなきゃいけない。そのアイテムは何かというと英語力であったり、これから経済が成長しそうな国の言葉、たとえばインドネシア語だったりベトナム語だったりする。
言語に限らないのですが、そういう自分の武器になりそうなものをたくさん持って、ある種の武装をしておいたほうがいいですね。チャンスはいつ巡ってくるかわかりませんから、今まで自分がやった仕事の実績をパソコンなどに入れていつでもすぐに見せられるようにしておくとか。自分の会社はいつなくなるかわからない、自分はいつクビになるかわからない、という危機感を常に抱いていたほうがいいでしょうね。