弘兼憲史
漫画家、『島耕作』シリーズ作者

俣野成敏

起業家、『プロフェッショナルサラリーマン』著者

【俣野】働く時間とプライベートの時間をちゃんと分けるべきかなど、ワークライフバランスについての質問なんかもあったんですが、そのあたりについて弘兼先生はどういうふうに考えていらっしゃいますか。

【弘兼】まず人間の1日は24時間ありますね。そのうち8時間ぐらいは寝る時間としましょうか。そうすると起きている時間は16時間ですよね。16時間のうち、8時間正規労働があって、プラス2時間ぐらい残業するとして、10時間が仕事の時間。前後に1時間ずつ通勤時間があると、12時間にも及ぶ。16分の12ということは、4分の3は仕事に関わってる時間ということになる。この4分の3を占める仕事よりも4分の1のほうの趣味を大事にするとしたら、人生の4分の3がつまらない時間になるじゃないですか。それよりは4分の3が楽しいほうが絶対いいわけだから、そのためには楽しい仕事をする、あるいはこれから就職する人は楽しい仕事を見つけるようにしたほうがいい。

イヤイヤ仕事をして、残りの4分の1でプラモデルを作ったり鉄道の時刻表をジッと見てる人生が楽しいかっていうと、それはやっぱり楽しくはないでしょう。だから仕事が1番楽しいと思うようになったほうがいいですよね。それができるのが幸せな人生だと思います。

【俣野】僕も同じ意見です。バランスというのは保とうと思うとかえっておかしくなるのかなと思うんですね。人間には三大欲求ってあるじゃないですか。三大欲求って放っといても湧いてくるものなんですけど、それを上回る何かを見つけたら人生勝ちなのかな、と思うんです。

【弘兼】島耕作は会長になりますが、僕は出世しようとしまいと、どちらでもいいと思うんです。全員が全員、社長になりたいやつの集団だったら、ちょっと不気味でしょう。会社ってうまくできていて、これからどんどん出世していきたいという上昇志向のある人と、俺は別に出世しなくてもいいけど、自分の小さな幸せだけを守っていきたいという人と、2通りあると思うんですよ。

どちらのタイプの人材も会社にとっては資源ですからね。だから出世したい人には頑張ってもらうし、そうでない人は別に無理をしなくていい。今、入社のときに働き方の希望をあらかじめ聞いておく会社があるんですよね。私は出張はしませんとか、残業はしませんというようなことを聞いておいて、AタイプとBタイプに分けておけば、会社としても処しやすい。転勤はしたくないと言えば、上には行けないけれど、絶対転勤もない。片やどんどん転勤させられるかもしれないけれど、上に行ける。上に行きたくないっていう人、若い人でも結構いっぱいいるんですよ。