「多様化」で開く 日本代表の地平

2005年9月、第一製薬と三共は持ち株会社を設立し、1年半後に事業統合を終えた。そのとき、新設された欧米管理部長となる。実情をつかむため、各拠点のトップたちと会って悩みを聞くと、「本社からいろいろうるさいことを言われる」という声が多い。すぐに、どこまでは現地に任せ、どこから先は報告や相談を求めるかの基準を明確にすることにした。そのために、社内規定も改めた。海外拠点のトップたちは歓迎し、「在乎壱民」が進む。2年後、世界中の拠点をみる海外管理部長になり、同じ基準を全世界に広げた。

社長になる前、第一三共は「ハイブリッド経営」を打ち出した。大黒柱の新薬の開発・生産に加え、特許が切れて参入が可能となる後発医薬品(ジェネリック)、日本が出遅れていたワクチン、薬局で売られる一般薬品(OTC)の計4事業を柱にしていく戦略だ。国内業界では、独自の路線で、そのすべてで資金力のある世界の強豪企業と戦っていくには、かなりの体力や戦略の強化が不可欠だ。だから、日本の製薬各社はそこまでは踏み出していない。

ただ、どれも薬を核とする事業であり、縁の薄い事業に出ていく「多角化」ではない。あくまで、医薬の世界での「多様化」だ。日本は高齢化が進み、国の財政難もあって、医療費の抑制傾向が続く。でも、だからこそ、価格が低いジェネリックへのニーズは高い。すでにインドの大手ジェネリック企業の過半の株式を取得し、傘下に入れた。国内で製品を扱う子会社も設立した。

ワクチンでは社長になった翌年、学校法人北里研究所と一緒に、製造会社をつくった。欧州の製薬大手グラクソの日本法人と、販売会社もつくり、営業を始めた。子宮癌の予防などの製品を、扱っていく。

挑戦すべき地平は、いま、大きく広がっている。当然、「ハイブリッド経営」を引き継いだ。体力や戦略の強化には、「心が1つの会社」という支柱もある。それを太くしていけば、必ず地平は開ける。だから、前回(http://president.jp/articles/-/9375)触れた支店や工場を訪ね、社員たちと直に話して回る「全国キャラバン」は、続けたい。

キャラバンで、たびたび使う言葉がある。「Small at Heart」だ。会社の規模がどんなに大きくなっても、気持ちの上では、1人ひとりを大切にする小さな会社のようであり続けたい。そんな思いを表している。会社の機能はいくつにも分かれ、役割分担によって成り立っている。そうした分業が1つに結集し、事業を成し遂げている。だから「営業と生産の現場は離れているが、ぜひ、お互いに努めて情報交換をして下さい」と呼びかける。

営業部門は、扱っている製品がどこで、どのようにつくられているのかに思いを馳せる。生産部門は、つくった製品がどうやって医師や患者のところへ届き、どんな評価を受けているのかを知る。遠く離れた同士でも、「在乎壱民」は可能だ。

(聞き手=街風隆雄 撮影=門間新弥)
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