合併後はリストラと賃下げが待ち受けている。合併の目的の1つは競争力のある筋肉質の体質をつくることにあり、ムダな設備の廃棄やだぶついた人員の整理も当然実施される。最近では主に2つの手法が採られる。
1つは新しい賃金の設定である。従来の合併では、賃金の高い会社に合わせるのが通り相場であったが「近年は必ずしも高いほうに合わせるのではなく、吸収された会社の賃金が高い場合は、引き下げるケースが増えている」(M&Aコンサルタント)という。具体的事例を紹介しよう。
2005年に第一製薬と三共の合併で誕生した第一三共は07年に完全統合。合併前の04年の第一製薬の月給は35万9656円(平均年齢34.5歳)。三共の06年の月給は31万3848円(36.1歳)。合併後の09年の第一三共の月給は39万9150円(36歳)であり、明らかに給与の高い第一製薬に合わせたことがわかる。
一方、引き下げられたのが09年10月に北越製紙と紀州製紙の合併で誕生した北越紀州製紙だ。紀州製紙の07年の月給は29万8770円(40.2歳)。これに対して北越製紙の09年の月給は29万1871円(38.6歳)。合併後の10年の月給は29万2115円(38.8歳)。紀州製紙の社員の月給は6000円以上引き下げられたことになる。
もう1つの手法は成果主義人事制度への移行だ。合併を機に従来の年功的賃金を完全に廃止し、業績が悪いと賃金もダウンし、降格もある制度を導入する企業が多い。ポストごとに会社が求める具体的な仕事の役割を設定し「定期的に仕事の役割価値を評価して役割が変更する。管理職層は役割の見直しにより下位の役割に変更する“降格”も発生する」(人事担当者)制度に移行した。この制度はポストだけではなく、給与の大胆な変動を促す。合併でこの制度を導入したIT企業の人事部長は「年齢にとらわれずに優秀な若手を抜擢できるメリットがある。管理職のグレードは1から最高位の5まであるが、1と2の年収格差は約150万円。グレードの変更、つまり、昇格と降格が毎年頻繁に発生する。しかも“飛び級”で300万円アップする社員もいる」と明かす。
もちろん人件費原資が増えるわけではない。一部の優秀な社員の給与が上昇した分は、その他大勢の社員にとっては“賃下げ”となって跳ね返ってくる。また、この制度の導入は中・長期的に会社側にメリットをもたらす。大手エンジニアリング会社の人事部長は、そのカラクリをこう説明する。
「年功賃金をなくし、ボーナスも業績連動による変動部分を拡大すれば、将来の加齢による自然増の固定費を抑制することができる」
さらに設計段階で5年後に1割、10年後に2割の人件費削減も可能。年功賃金を一気に払拭し、中・長期的な人件費削減も合併の大きな狙いでもあるのだ。
※すべて雑誌掲載当時