覆面パトカーに尾行された

ゼネコン 人事部 井上善道(仮名) 36歳●「人生の時間を止めてました」――人事畑からいきなり買収先の不動産部門へ。新しい部門への異動にあっておかしくない昇格もなく、契約本数を増やしても歩合報酬ゼロ。水曜休日、GWも書き入れ時という異業種のサイクルに、とうとう適応せずに終わる。

某ゼネコンに勤める井上善道さん(仮名、36歳)が、買収先への出向を命じられたのは、5年前の春だった。

「ある部長が『儲かっているらしい』と言って持ち込んだ住宅メーカーとのM&A。が、詳しく調べたら、相手はとんでもない財務状態だった。しかし、それまで貸し付けた分もあったから手を引けない。土地・建物を押さえて1部門だけ買収し、そこの社員を引き連れて住宅事業部門を立ち上げたんです。メーカー本体は倒産しました」

直後、上司に「外の世界を経験してこい。まあ、君なら大丈夫だ」と同部門への出向を命じられた。人事部にいた井上さんにとって、まさかの異動だった。

「随分と気楽に言ってくれたものですが(苦笑)、不動産はグレーゾーンの多い業界。事業内容もよくわからないし、周囲は他社から来た人ばかり。土地勘すらないアウェー状態でした」

土・日は現地販売で、休みは水曜日の1日のみ。当初はそれすら休まず頑張って働いたが、他の部署なら支払われる休日出勤手当、現場手当、出張手当はまったくない。おかしいじゃないかと言ったら、他の社員たちは「俺たちは基本、歩合で貰っているから手当は欲しくない」と言う。そんなものかと思っていたら、初めて1件売った際の手当はゼロだった。

「責任者はM&A案件を引っ張ってきた例の部長。何とか人件費を削りたかったんでしょう」

納得できなかった。1、2年目は赤字。3年目に芽が出かけたが、リーマン・ショックで不動産は一気に冬の時代に。値引きのスパイラルが始まった。

「業績不振で全社的なブーイングを浴びるようになりました。頑張ってもいいことがない。ボーナスも他の部署に比べてよくない。『何やってんだ、俺』と悶々としてました」