正しいと思ったことをせよ、己を貫け……そう言い続けられる会社員は、まず少数派だ。

「正しいことをやったからといって、正しい処遇は得られません」

東京管理職ユニオンの安部誠副執行委員長は、「自力で不当な人事異動をリカバーするのは極めてレアなケース」と力説する。

「上司に聞こえよがしに『俺を外すようだからこの会社はダメなんだ』みたいなことを言い出したら、余計ドツボにはまっていく。だから、生き残りのためには、しばしば会社より自分のほうを変えて適応していくことが必要となるんです」

以下の事例は、逆境からのカムバックというより、異動をどう受け止め、どう対処したかという点で参考になりそうだ。

“見返してやった”気持ちはある

準大手広告代理店 部長クラス 田崎博文(仮名) 45歳●顧客ゼロ、経費ゼロ。アウトサイダーばかりの小さな部門に飛ばされたが、成果を挙げ“復活”。取材の際も受け答えが明快で、笑いを交えた営業トークが秀逸。「自分を不器用な人間だと思ってたけど、案外器用なんだとわかりました」と明朗だ。

「役員の嫌がらせで左遷されました」――そう語るのは、準大手広告代理店で部長クラスのポジションにある田崎博文さん(仮名、45歳)。30代の頃は、花形の営業部門を内勤スタッフとしてサポートする役回りだった。営業部門から評価され、仕事は順調だったが、今思えば調子に乗っていた、と振り返る。「確かにカン違いしていた部分はあった。営業の先輩に気に入られ、毎日営業の職場に詰めていたことが内勤の上司のカンに障ったんだと思います」

某菓子メーカーの新製品キャンペーンを受けた際、つい担当外の領域に口を出した。営業とクライアント以外の他のセクションの人たちは面白くない。

同僚から「役員から目を付けられてるぞ」と耳元で囁かれたその矢先、「そんなに営業やりたいならやらせてやる」と当の役員から声が掛かった。“水を得た魚”となるはずだったが……。

「配属先は、過去に例のない新規開拓。ヤラレタと思った」

兼任部長とアルバイト1人のほかに、社員は田崎さんを入れてたった3人。他の営業セクションでは認められていたタクシーチケットや諸経費はゼロ。出るのはバス・電車賃だけ。あからさまな嫌がらせだった。

「同僚はいずれもクセのある年上ばかり(笑)。2人とも『何で俺がこんなとこに……』とフテ腐れていた。某役員は、『君たちだからこそできる』とか何とか言ってましたが、ふざけんな、バカヤロウ! ですよ」