2通の辞表にも音沙汰なし
「異動に関する情報をいかに早く掴むか。そうしないと、自分を守れません」
大手機械メーカー東京本社に勤める寺田康司さん(仮名、51歳)は、数年前に突然、アジア南部の辺境地に回された苦い経験がある。数カ国語を操り、これまで赴任した経験のある欧州や南北アメリカとは、いささか勝手が違ったようだ。
「突然、異動の日付の2週間前に言い渡された。昔はこんな真似はしなかったんですが……。飛ばされた理由は、強いて挙げれば労組の支部長をやっていたことぐらい。今もわかりません」
アメリカ赴任時はストレスで病に伏した妻と学校でいじめられた一人娘が先に帰国した「次はもう(海外赴任は)嫌です」と妻に言われていた。
「丁度マンションを購入するところでした。考える暇もありません。慌てふためいて、妻と子どもを置いて身一つで現地入りし、日本の住居のことは改めて日本に戻ってから処理した。その往復の旅費約10万円は自腹でした」
赴任地ではナンバー2のポジション。とはいえ、不慣れな業務に戸惑った。半年後、トップの座に3歳上の上司が異動してきたことが災難の始まりだった。
「型破り、というより常識外れの人。当然やるべき仕事をまったくやらずに、あちこち海外を飛行機で飛び回るんです」
訪問地では事業所や取引先に顔を出すわけでもなく、何をしているのかが皆目わからない。しかし、「行かなきゃならない」と言われれば逆らえない。
「1回のフライトで3万~4万円分のマイルが貯まるからバカにならない。貯めた分はプライベートで使っていた。後で聞いたら、別の赴任地にいた頃も同じことをやっていたようです」