行き場を失った知性が向かうのは

にもかかわらず、人間社会はどんどん大卒や大学院卒をよかれと世の中に送り出している。知的エリートでなければできない仕事は増えるどころか、今後はAIによってますます減ってしまうかもしれないのに、おかまいなしに大量生産している。

御田寺圭『フォールン・ブリッジ 橋渡し不可能な分断社会を生きるために』(徳間書店)

そこそこにすぐれた知性の行き場を用意できなくなった人間社会は、ピーター・ターチンやフランシス・ベーコン(*4)が述べたように、大きな社会不安に見舞われるのかもしれない。

だからといって武装集団や革命勢力が街や議会を蹂躙じゅうりんするような、目に見えて「荒れた」世界はやってこないだろう。そうではなくて、エリートたちが合法的かつ秘密裏に他者や社会から「収奪」して、その「収奪」ができる構造を守ることばかりに持ち前のすぐれた頭脳を活用する、そういう閉塞的な時代がやってくる。

近ごろのメディアでしばしば伝えられる政治家の横領とか、エリート国家資格職の不穏なサイドビジネスとか、非営利団体への利益誘導とか、補助金不正受給とか、そういった方向で「こっそり稼ぐ」ような人たちの姿は嘆かわしくはあるが、それと同時にホモ・サピエンスという種族の最大の強みであった「知性」の行き詰まりを表しているように見えてならない。

(*4)フランシス・ベーコン(1561~1626) イギリスの哲学者。観察・実験に基づく帰納法を主張して近代科学の方法を確立。著書に実践哲学を説いた『随筆集』やユートピア物語『ニュー・アトランティス』など。「知は力なり」との言葉で人間の知性の優位を説いた。

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