卓球の伊藤美誠選手は、東京五輪の混合ダブルスで金、女子シングルスで銅メダルを獲得した。なぜ彼女は結果を出すことができたのか。英作家のマシュー・サイドさんは「生まれた瞬間から成功を約束されている人はいない。伊藤選手も実はエリート中のエリート選手ではなかった」という――。

※本稿は、マシュー・サイド『きみはスゴイぜ! 一生使える「自信」をつくる本』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

ビヨンセもネイマールも最初は初心者

こんな人を見たら、どう思う?

○ ゴールから40メートル以上の位置から目が覚めるようなフリーキックを決めるサッカー選手
○ きっかり5分で勝つチェスのグランドマスター
○ きみのクラスで、どのテストでも決まってトップになる子
○ セリフがすらすら言えて、全然あがらない学芸会のスター
○ 卓球台から15メートル離れて、カンペキなスマッシュを決める選手(ぼくもできる。いや……少なくとも以前はできた)

そりゃあ、ヨチヨチ歩きのビヨンセや、ボールをまだ蹴ったことがないネイマールなんて想像できないよね。でも世界的なスーパースターだって、きみやぼくと同じように人生をスタートしたはずだ。

つまり今日のビヨンセやネイマールになるまでに、彼らはあらゆるチャンスを逃さず、失敗をコワがるかわりに新しいワザにどんどん取り組んできたんだ。

達人たちがどうやってその道をキワめてきたかを理解するのは、「しなやか系マインドセット」(成功する人が持ち合わせている、つねに柔軟に成長していく思考法)を身につけるうえで、とても大切なことだ。

ふつうの子とスゴイ子を分けるもの

ここに全英卓球選手権の決勝を見ているふつうの子がいる。

ふつうの子には、画面上のスゴイ子の超人的なスピードが信じられなかった。その若い選手の顔にどこか見覚えがある気がしたけど、何より目を奪われたのは、試合を思うままに支配する、スゴイ子のテクニックだった。見たこともないスゴワザだったんだ。

テレビに見入る少年
写真=iStock.com/LSOphoto
※写真はイメージです

ふつうの子はソファに脚を投げだし、お母さんがふいに入ってきやしないかと横目でドアのほうをうかがいながら、スゴイ子が優勝する瞬間を見守り、なぜだか気落ちしていた。

ふつうの子はこう思ったにちがいない──スゴイ子は生まれつきスゴくて、それ以外の子は何をやってもパッとしないままなのさ、とね。

ここでふつうの子が一時停止ボタンを押し、「あのすばらしい試合をするまでに、スゴイ子はどれほどの努力を重ねてきたんだろう……」って考えてみたらよかったんだけど。

輝やかしい栄光の瞬間──スゴイ子が卓球の全国チャンピオンになったとき、ふつうの子の目に映ったのはそれだけ。