そう、ふつうの子には見えていないものがあった。ここにいたるまでの長くて険しい旅路だ。じつのところ、スゴイ子は厳しい練習に膨大な時間を費やしてきたんだ。

きっと勝利の瞬間にすべての苦労が報われたにちがいないけれど、スゴイ子だって、それまでの道のりで何度も自信を失いかけた。疲れやボロ負け、ときにはスランプも達人への道に立ちはだかる障害物だ。

そういう障害を乗りこえるには並はずれて強い意志がいるけど、それを学びの体験に変えるには、さらにゆるぎない決意が必要だ。

そして、そうした試練や困難の末に手に入れたからこそ、スゴイ子の勝利は最高にすばらしいものになったんだ。

自分もかつて、スゴイ子と同じ場所にいたのだと、ふつうの子が知っていればなぁ……。ふつうの子にも、卓球の達人になり、さらにチャンピオンだって目指せるチャンスが、平等にあたえられていた。

でも、ふつうの子は、ラクなほうの道を選び、卓球から遠ざかってしまった。

そうして、自分自身が歩めたかもしれないすばらしい道のゴールにだけ目をやり、スゴイ子が成しとげたことは、自分にはとうてい手が届かないものだと思ってしまったんだ。

才能は生まれつきのものではない

だれだって失敗する!

きょう、ぼくたちが達人のパフォーマンスを見るとき、「興ざめな部分」はあまり見たくないものだ。

たとえば、チケットを買って行ったコンサートでピアニストが暗譜していなかったり、レーサーが何度も車をエンストさせたらがっかりだ。

そのせいか、成功といえば表面ばかりで、水面下を見ようとしない。

ぼくたちは、時代遅れの才能コンプレックスになりがちだ。

つまり、目の前の達人たちは、生まれた瞬間から才能を約束されていたものと信じてしまう。そしてほーら、あっという間に「かちこち系マインドセット」(「しなやか系マインドセット」とは真逆の、成長が止まる狭い思考法)に逆もどりというわけ!

そうじゃなくて、ポジティブな「しなやか系マインドセット」に乗っていこう!

きみにとってノリがよくて楽しいことを見つけるんだ。

神経には可塑性というものがある。何かをすごくうまくなるのに必要な神経のつながりは、つくり上げるのに長い時間がかかるんだ。

それなのに、だ。

才能は生まれつきのものだという考え方は、そこらじゅうに、はびこっている。

ロジャー・フェデラーは「DNAにテニスが刻みこまれている」と言われてきた。リオ五輪で金メダルを4つも取った体操選手のシモーネ・バイルズは、アメリカで「天性の命知らず」と呼ばれてきた。まるでこの世に生まれたとたん、3回転して着地を決める能力があったみたいにね。

DNAの二重らせん
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タイガー・ウッズもそう。「ゴルフをするために生まれてきた」と言われ続けてきた。

そこでどうだろう、ぼくといっしょに有名な「天才神話」をくつがえす旅に出てみない?