高齢者が増えても日本の介護サービスは維持できるのか。文筆家の御田寺圭さんは「人口動態のバランスから考えれば、近い将来に高齢者になる人のほとんどが、現在と同レベルの介護サービスを受けることは容易ではなくなる」という――。
籐の椅子に座るシニア女性
写真=iStock.com/Hanafujikan
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いまと同レベルの介護サービスを受けることは困難になる

「お金持ちだけが介護を受けられる未来が、遠からずやってくる」――そう伝えるニュースが、各所で大きな波紋を呼んでいた。

――政府は引き下げの理由を、訪問介護の利益率が高いから、と説明しています。

利益率が高いのは、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の訪問介護です。一軒一軒訪問する在宅ヘルパーより、集中しているサ高住のヘルパーのほうが利益率が高いのは当然です。

サ高住に入っているヘルパーに聞くと、「楽です」と言います。在宅ヘルパーは雨が降っても雪が降っても一つ一つ家を回らなければなりませんが、サ高住は屋内を回ればよいからです。

それを同じ基準にしますか。まやかしの政策をやらないでほしいのです。

廃業する事業所もでています。本当になぜこんなことをするのかわかりません。私たちはなにか悪いことをしましたかと言いたくなります。

毎日新聞「訪問介護の基本報酬の引き下げ おカネ持ちだけが介護を受けられる未来」(2024年7月29日)より引用

これについて、SNSをのぞき込んでみると各所から(国や政府に対する)非難や怒号が上がっていた。

怒りの声をあげたくなる気持ちもわかるが、しかしながら「介護はお金持ちだけが受けられる未来」は、表現としてはいささか過激ではあるものの、そこまで非現実的な話とはいえない。この国の向こう数十年間における人口動態のバランスから考えれば、近い将来に高齢者になる人のほとんどは、いまの水準と同等の介護サービスを受けることは容易ではなくなる。

「人的リソースのひっ迫」という決定的問題

訪問型や通所型といった非効率な介護サービスはほとんどの事業所で維持困難となり、それらは現在でも次々と閉鎖に追い込まれている。どうしても自宅を離れたくないと望む、都市部の富裕層だけが限定的に受けられる贅沢品ということになるだろう。富裕層でない一般層が介護サービスを受けたいならば、都市部に集約され効率化された大規模施設に入所するほかない。もっとも都市部でもそうした施設の入所料や利用料がどんどん高騰しており、やはり中長期的にはお金持ちだけしか入れない施設になっていくだろうが。

多くの人が誤解しているのだが、医療や介護のサービスのひっ迫は、実際には金銭的(財政的)なレイヤーの問題だけではない。もちろん社会保障費の収支バランスの急激な悪化は無視することはできない深刻な課題のひとつではあるが、十数年後の未来に直面するのはそうした「金勘定」の問題だけでは済まなくなる。もうひとつのレイヤーの重大な問題が、まだ世の中にはそこまで表面化してきていない。

もうひとつの重大な問題とはすなわち、人的リソースのひっ迫である。