しばしば報じられる政治家の横領、エリート国家資格職の不穏なサイドビジネス、非営利団体への利益誘導――。文筆家の御田寺圭さんはそれらを、「人間社会の技術の爆発的進歩が落ち着き、行き場を失ってしまったそこそこの知性たちの生み出した徒花(あだばな)である」という――。
※本稿は、御田寺圭『フォールン・ブリッジ 橋渡し不可能な分断社会を生きるために』(徳間書店)の一部を再編集したものです。
過ぎ去った「劇的な技術革新」の時代
ライト兄弟による動力飛行機の初飛行は1903年のことだった。彼らが飛ばした飛行機の飛行距離はわずか37メートルだった。人類がはじめて動力を携えた飛行機で空を飛んだその日からわずか60年ほどで、人類は空から宇宙に進出して、月面に降り立った。
エジソンがはじめて蓄音機を発明したのが1877年で、彼は童謡「メリーさんの羊」の一節を自分で歌って録音した。それから100年後には井深大(*1)がウォークマンをつくり、世界中の人が高音質の音楽をボタンひとつでどこにいても楽しめるようになった。
19世紀から20世紀中盤ごろまでの人類の技術進歩は瞠目に値する。かりに19世紀中盤から20世紀中盤までの100年を生きた人がいたとして、その人の目から見た人間社会の目まぐるしい変化は、まさしく「異世界」に突入したかのごとき光景だったことだろう。
しかしながら、現代に生きる我々はどうだろうか。
ずっと地べたを歩いていた人がいきなり空を飛んだかと思えば、あっという間に空のその先にある星に飛び立ったりしたかつての時代ほどには、劇的な技術革新が起きる世界を生きているわけではない。
(*1)井深大(1908~1997) 盛田昭夫および社員二十数名で1946年、ソニーの前身となる東京通信工業を創立。独自の製品開発に専念する電子技術者としてソニーを世界的企業に伸長させた。60年以上前にAIによる自動運転システムの出現を予言した。