「スタバ世代」が30~40代の親になっている
スターバックスが若いファミリー層をターゲットとして新規開拓しようとする背景には、親になった「スタバ世代」を手放さないようにする狙いがあると考えられる。スターバックスの日本進出は1996年の銀座松屋通り店で、2000年代以降、全国で多くの若者がスターバックスに親しんでいった。そうして青春時代にスターバックスを愛用したスタバ世代の多くが、現在では30~40代の親になっている。
しかし、親になったスタバ世代にとって、従来のスターバックスの店は、なかなか以前のようには利用しにくいものになる。ベビーカーで入りにくかったり、子連れでは長居しにくかったりして、別のカフェやファミリーレストランなどを選びやすくなる。しかし、もともとスターバックスを好んで利用してくれていたユーザーを、みすみす手放してしまうのはあまりにもったいない。そのため、ファミリー層にとって利用しにくい点を解消し、親になったスタバ世代のニーズにしっかり応えられる店を作ることで、「家族でスタバ」の利用を促そうと考えるのは手堅い戦略だろう。
新規顧客の獲得には、既存顧客を維持する5倍コストがかかる
マーケティングにおいて「既存顧客を手放さない」ことの重要性は極めて大きい。同じ「一度の利用」でも、0から新しい顧客を作るよりも、すでに利用経験のある顧客にもう一度使ってもらう方が、ずっと容易で効率的だからだ。新規顧客の獲得には、既存顧客の維持と比べて5倍のコストが必要になる、という「1:5の法則」は良く知られている。
また、店や商品・サービスを愛用してくれるファンは、自発的に良いクチコミをリアルでもネットでも発信してくれる存在でもある。自ら宣伝してくれて、新しい顧客を呼び込んでくれるという意味でも、既存顧客を手放すことなく、良好な関係を深めてファンを増やす戦略には大きなメリットが期待できる。
若い頃からスターバックスを愛用してくれていたスタバ世代を手放さないように、家族でも利用しやすい店や商品・サービスを提供し、「家族でスタバ」という形で継続利用してもらう戦略は有効なものとなるだろう。親になったスタバ世代のニーズに応えることができれば、彼らは長年来のファンとして良いクチコミを発信し、新たなユーザーを呼び込む好循環も生まれてくる。