スターバックスは昨年6月、国立駅直結のビルに新店舗をオープンした。従業員22人中16人は聴覚に障害があるが、全員が接客業務に当たっている。駅周辺の主力エリアに出店した狙いを取材した――。
nonowa国立店の店頭。ストアマネージャーの伊藤真也さんに手話で“スターバックス”を表してもらった
撮影=プレジデントオンライン編集部
nonowa国立店の店頭。ストアマネージャー(当時)の伊藤真也さんに手話で“スターバックス”を表してもらった

駅直結のビルにある「手話を使う」店

「あの店で手話を覚えたんです。『ありがとう』って手話で伝えたら、店の人がすごく喜んでくれた」

スターバックスの新店「nonowa 国立店」に週2回ペースで通う美容師の男性はそう言う。2020年6月、JR国立駅直結のビルに開いたこの店は、従業員22人のうち16人が聴覚に障害をもつ。期間限定ではなく、駅周辺エリアの主力に位置付けられる常設店舗だ。

3月中旬、昼時の店内は8割がた席が埋まっていた。編集者と2人でコーヒーを頼むために列に並んだら、パートナー(従業員)の野村恒平さんが「ソーシャルディスタンスをとって!」とジェスチャーで伝えてくれた。意味はすぐに分かった。

ジェスチャーと指差しで注文完了

レジカウンターでは、「指差しメニュー」に書かれたメニューを指しながらコーヒーのサイズ、ホットかアイスかなどを伝える。野村さんは手でマルをつくり「OK」サインを出し、慣れた様子でレジに打ち込んでいく。「領収書をください」という言葉は伝わらなかったので、差し出されたタブレット端末に電子ペンで書いた。

nonowa国立店には、客が指差しで注文できるよう独自のメニュー表がある
撮影=プレジデントオンライン編集部
nonowa国立店には、客が指差しで注文できるよう独自のメニュー表がある

nonowa国立店では、聴覚に障害のあるパートナーが働きやすく、お客も戸惑うことがないように、店内にさまざまな工夫を凝らしている。

例えば、パートナーが腕につけるデジタルウォッチは、コーヒー豆の交換タイミングなどを音の代わりに振動で知らせる。客が受け取るレシートには注文番号が書かれている。店内のデジタルサイネージに番号を表示して、ドリンクができたことを知らせるためだ。

自分たちも活躍できる店をもちたい

nonowa国立店が生まれたきっかけは2017年8月に本社で開いた、聴覚に障害のあるパートナーを対象にしたグループワークだった。グループごとに自分たちがやりたいことをまとめたところ、全グループが「『サイニングストア』をやりたい」と希望した。サイニングストアとは、手話を第一言語とする店だ。当時、マレーシアで初のスターバックスのサイニングストアがオープンしていた。

「本当にできるのかな、という気持ちはありました」。社内のダイバーシティ&インクルージョンを担当し、サイニングストアの立ち上げに関わったマーケティング本部Social Impactチームの林絢子さんは言う。