コーヒーチェーン最大手・スターバックスは、重要文化財などの歴史的建造物への出店を増やしている。いまでは全国28カ所にそうした「リージョナルランドマークストア」を構える。なぜそんなことができるのか。淑徳大学経営学部の雨宮寛二教授は「スタバには『人を大切にする』という理念が徹底されており、それが困難な店づくりを成功させている」と解説する――。

※本稿は、雨宮寛二『2020年代の最重要マーケティングトピックを1冊にまとめてみた』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

京都のスターバックスの外観
写真=iStock.com/Page Light Studios
※写真はイメージです

「暖簾をくぐって入る」店はどうやって生まれたか

現在スタバで特に力を入れているのが、「リージョナルランドマークストア」です。これは、地域の人にとって特別な存在であるようなスターバックスを作っていく活動で、具体的には、文化財や伝統的な建築様式による建物など地域を象徴する場所で地域の人々が集えるような店舗づくりを展開しています。

たとえば、鹿児島では有形文化財に登録されている旧薩摩藩主・島津家ゆかりの建物に出店しています(鹿児島仙巌園店)。また、神戸では異人館を丸ごとスタバにしたり(神戸北野異人館店)、福岡では太宰府天満宮の参道に店を開いたりしています(太宰府天満宮表参道店)。

こうしたリージョナルランドマークストアは、今では全国に28店舗を展開するまでになっています。中でも代表的な店と言えるのが、京都二寧坂ヤサカ茶屋店です。この店は、世界初の暖簾をくぐって入るスタバであり、世界で唯一座敷があるスタバとして2017年にオープンしましたが、出店に漕ぎ着けるまでには実に10年もの歳月がかかっています。

二寧坂と言えば、京都市東山区で清水寺へと続く参道として、江戸時代末期から大正にかけての町屋が軒を連ねる伝統ある景観を持った場所です。この地域では街の景観保全に力を入れていることから、スタバ出店にはこの景観を損ねるのではないかとの懸念がありました。そのため、スタバは保全に取り組む地域の人たちと何度も話し合いを重ねることで、出店するための糸口を模索しました。

屋根裏の梁やスズメバチの巣もあえて残す

その結果、地域の人々の願いに応えるため、建物を徹底的に残す店にしたのです。たとえば、むき出しになった屋根裏のはりやスズメバチの巣も敢えてオブジェとして残すことにより、先住者の息吹を感じられるようにしました。スタバのロゴも店内の壁にプロジェクターで投影して表示するよう工夫されています。

こうした思いを地域の人たちに伝え工夫しながら二人三脚で作り上げていった結果、今ではスタバは、地域の町づくりを支えるプレイヤーの一員になっています。

地域を支援するという意味で、スタバにはもう1つ重要な店舗づくりがあります。それが、京都府河原町通の商業ビルにある京都BAL店です。この店は、若手アーティストの作品を取り入れたアトリエのような店舗になっています。

元来京都には芸術大学が多く存在しますが、学生が作品を展示する場所や機会があまり無かったことから、そうした作品を発表する場が欲しい若手アーティストを支援する店として誕生しました。今では、発表機会が日本中で活躍する若手アーティストたちにも広がっています。