センスメイキングの活用において、その嚆矢となるプロセスが「環境の感知」です。センスメイキングは、不確実性や新規性、予測困難性といった環境下で重要になります。ここで言う環境は、従来研究から以下の3つに分類することができます。
1つ目は、「危機的な状況」です。これは、市場の低迷や市場シェアの低下、競合他社の攻勢、急速な技術変化、天変地異による経営危機などに直面した状態を指します。
2つ目は、「アイデンティティの喪失」です。事業環境の変化による自社の強みの陳腐化や経営理念やビジョンに疑念が生まれている状態などがこれに当たります。
3つ目は、「意図的な変化」です。イノベーションの創出や新規事業の創造、多角化など企業が過去に実施したことのない新たに行う戦略転換がこれに該当します。
これらの3つのうち、1番目と2番目は企業が意図しない受動的な環境変化であるのに対し、3番目は意図的に行う、いわば能動的な変化になります。
リーダーが説得力のあるストーリーを持っている
こうした環境の感知がなされると、次に必要となるのは、その環境を解釈して企業や組織内で共有できる特定の解釈に絞り意味付けをすることです。ある環境や事象が生じると、それに対する解釈や意味合いは人によって異なります。このような多義的な解釈は、企業や組織内に混乱を招きアイデンティティが揺らぐことにつながります。
それゆえ、企業や組織においてそうした多義的な解釈をできるだけ減らして足並みを揃えることがリーダーには求められます。これは「組織化」と呼ばれ、センスメイキングでは重要なプロセスになります。
組織化により、多義的な解釈から特定のものを選別することができたら、それに意味付けをすることが必要となります。なぜなら、意味付けが不十分だと、リーダーはメンバーに納得してもらうことができず、組織全体として解釈の方向性を揃えることができなくなるからです。それゆえ、意味付けには「ストーリー性」を伴うことが求められます。
ストーリー性は、メンバーの疑問や不安を払拭するだけでは十分であるとは言えません。メンバーが腹落ちして、「自分たちだからこそ実現が可能である」との自信を与えられるようなストーリーを構築することが必要になります。
ただ、ここで重要なのは、ストーリー性には正確な分析や緻密な戦術まで盛り込む必要がないということです。そもそも、急激な環境の変化は、従来の経験が通用せず解釈が多義的になることから、正確に状況を分析することは不可能です。逆に、そのような状況下での分析は信憑性を欠くことになるため、メンバーの納得を得ることは難しくなります。