チェーン店では見かけない独自の接客

地域支援による店舗展開の礎になっているのが、「パートナー」と呼ばれる従業員です。従業員を敢えてパートナーと呼称するのは、スタバが一緒に働いている従業員を家族と位置付けているからです。

パートナーによる店舗づくりで重要となるのが「接客」です。スタバでは、競合店とは異なる独自の接客を行っています。たとえば、常連の顧客が来店すれば、その顧客の好みを覚えていて注文をスムーズに誘導するし、普段親子で来る顧客には、なぜ今日は子供が来ていないかをさり気なく尋ねて親近感を高めています。

だが、接客はこうした会話だけに留まるものではありません。たとえば、乳児と一緒にベビーカーで来店した顧客には、注文後ドリンクなどが出来上がると、顧客が座っているテーブルまで運んでいくのです。

マニュアルではなく、人を大切にしている

こうした会話や気遣いは、接客マニュアルに規定されているわけではありません。スタバには接客マニュアルが存在しないことから、パートナーが個々の判断で一人ひとりの顧客に最適な接客を実践しているに過ぎず、店舗スタッフは、まさに顧客がハッピーになるパートナーとして向き合っているのです。

このように、スタバは地域と共存し顧客の日常に活力と潤いを与え続けていますが、そのベースにあるのは、あくまでもパートナー、すなわち従業員です。スタバは人が中心にいて、人を大切にする会社です。会社として利益を恒常的に創出し働く人へ還元することで、さらに人が成長し社会にも貢献していくのです。パートナーを中心に新たなチャレンジを常に行っていけるのも、こうした創業の理念が浸透しているからです。

不可能な店舗づくりを実現できるスタバの底力

以上の事例のような、一見遂行が不可能な店舗づくりをスタバはどのようにして実現したのでしょうか。

経営学でこれを説明する理論として、「センスメイキング」の考え方があります。組織心理学者であるカール・E・ワイクによって提唱されました。センスメイキングとは、企業や組織がある環境に直面した時、その環境を感知して、メンバーやステークホルダーがその意味に納得し腹落ちする答えを導き出し、それに意味付けしたうえで行動し実現するまでのプロセスを指します。

この考え方から、センスメイキングが3つのプロセス、すなわち、①「環境の感知」、②「解釈・意味付け」、③「行動・行為」から構成されていることが理解できます。