就任翌日に日銀総裁と異例の会談

石破氏が総裁選で金融所得課税の強化を掲げていたことも、株式市場にはマイナスと受け取られた。株価の大幅な下落をメディアは「石破ショック」と報じた。2021年10月に岸田文雄首相が就任した後も、岸田氏が「金融所得課税の強化」に触れるたびに株価が大きく下落、「岸田ショック」と呼ばれた。岸田氏は当初の持論をその後、封印した。石破氏は首相就任前から市場の洗礼を受け、さっさと自説を引っ込めたことになる。

翌日には閣僚からも火消しの発言が相次いだ。赤沢亮正・経済財政担当相は「石破首相が日銀の利上げに前向きとの見方は必ずしも正しくない」「(日銀の利上げは)慎重に判断していただきたい」と発言。加藤勝信財務相も「金利上昇を前提に考えるべきではない」と発言した。

石破首相は、首相就任翌日の10月2日夕刻には植田和男日本銀行総裁と会談を行った。就任翌日に首相と日銀総裁が会談を行うのは異例だった。会見が終わると石破首相と植田総裁が記者に囲まれてコメントをしていた。メディアは、「石破首相は追加利上げについて『個人的には現在そのような環境にあるとは考えていない』と述べた」と速報を打った。証券会社のエコノミストからは「日本銀行の追加利上げのハードルは上がっていると考えられる」と言った声が出た。

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「岸田内閣の経済政策を引き継ぐ」方針に

結局、石破首相は、「岸田内閣の経済政策を引き継ぐ」方針を示した。国会の所信表明演説でも、党首討論でも、経済政策に関して「石破色」は完全に封印された。もともと石破首相は経済に関心がないと言われ、記者からも「経済に弱い」といった指摘を繰り返し受けている。結局、選挙を戦うためには、前任者の方針を引き継いでいくのが安全だと思ったのだろう。岸田流の「円安株高政策」を続けていくとしたわけで、株式市場では株価が上昇、為替はジリジリと円安が進んでいる。10月10日現在、円ドル相場は、1ドル=149円台になっている。

だが、岸田前首相が残した「置き土産」を引き継ぐことは、そう簡単ではない。岸田流は、キャッチフレーズなどを掲げ、これまでタブーだったことに踏み込むなど「変える感」は出すが、実際にはその実現は簡単ではない、というものだ。打ち上げた課題解決が実現できないからこそ、途中で政権を諦め、総裁選立候補を見送ったとも言えるのだ。