単身世帯の増加とFIRE願望が「インフレリスク」になる

この「予言」が大きな波紋を呼んでいたちょうどそのころ、ネット上では別のレポートが話題を集めていた。

みずほリサーチ&テクノロジーズから出されたレポートで、日本で急増する単身(非婚)世帯の増加と、かれらの間で盛り上がる「FIRE(早期リタイア)」願望の拡大は、この国にとって深刻な人手不足型インフレリスクになりうるというものだ。

・非婚化を背景に単身世帯が増加している。遺産動機や子育て費用のない未婚単身者はそれほど多くのカネを稼ぐ必要がないため、労働市場からの離脱が比較的早い

・単身世帯化がFIRE願望と結びつく場合には、人口減少+高齢化による構造的な人手不足がさらに加速する要因となりうる

・こうした人手不足の加速は日本経済に構造的なインフレ圧力をもたらす可能性がある。単身世帯化(≒非婚化)の原因について、より踏み込んだ分析・議論が必要かもしれない

みずほリサーチ&テクノロジーズ「単身世帯化の日本経済への影響」(2024年8月28日)より引用

先述したとおりだが、ロスジェネ世代が誕生したバブル崩壊以降から日本の未婚率は急激に上昇している。なおかつ所得水準が非婚率とは負の相関性を持っていることから、ロスジェネ世代の置かれた厳しい経済状況がかれらの結婚意欲を削いでしまったことは想像に難くない。

子どもを持たない高齢者はリタイアへの資金的ハードルが低い

ロスジェネ世代はいま先頭が50代に入り、十数年後には立派に高齢者層の仲間入りを果たす。現在の高齢者層は基本的に皆婚時代を生きた人びとであるためその多くが結婚し子どもを持っているが、ロスジェネ世代はそうではない。かれらはこの国において「生涯未婚・子無し単身高齢者」が多く含まれる初めての世代となる。

子どもを持たない高齢者の急激な増加は、すなわち「資産(≒遺産)を増やして次世代に残さなければならない」という時間的な連続性の意識を持たない人びとの増加を意味する。みずほリサーチ&テクノロジーズのレポートで示すように、これから増える単身高齢者層は独り身であるがゆえに生活コストがかからず次世代に継承する資産形成の動機を持たないため(≒リタイアに必要な資金的ハードルも低くなり)労働市場からの離脱も早くなる。

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結婚せず子どもを持たないから将来の消費者(購買層)や社会保障の担い手をつくらず、また自身の生活コストが低いからそこまで貯金や資産形成をする必要にも迫られず労働市場のメインストリームから早々に撤退する「FIRE志向」を持つ者が増加する――というのは、社会経済にとって大きなリスクになる。