ギガキャストに死角はないのか?
3つ目は、生産技術・工場の進化です。具体的には、メガキャストと接合技術(FSW:3D=摩擦攪拌接合)を組み合わせることで、生産効率の向上と投資抑制を実現し、従来の混流生産ラインと比較して約35%の生産コスト削減を目指すとともに、量産化では、6000tfのダイカストマシンを栃木の生産技術開発拠点に導入する意向です。
ホンダは、この電動化戦略の実現に向け、EVの本格普及期となる2030年度までに、約10兆円の資源を投入し、バッテリーコストや生産コストの削減により、EVのROS(売上高営業利益率)5%実現を目指す意向を示しています。
トヨタにしてもホンダにしても、EVの生産効率はギガキャストの導入で高められるとの考えを示していますが、それではギガキャストに死角はないのでしょうか。
ギガキャストで懸念されるのは、以下の3点です。
第1に考えられるのは、膨大な設備投資による利益圧迫の可能性です。ギガキャストを中心に据えた生産設備を整えるためには、数兆円単位の費用がかかり、膨大な投資が必要とされます。
日本の自動車メーカーにとって、投資額が重荷になるだけでなく、ガソリン車の生産設備は将来的にサンクコストになるため、生産効率の低下を招く恐れがあります。
強みの「アフターサービス」をどこまで残せるか
第2に想定されるのは、メンテナンス費用が高額になる可能性です。ギガキャストでは、一体成型された部品が破損した場合、まるごと交換することになるため、メンテナンス費用が高くなる恐れがあります。実際、テスラ車で高額な修理費用を請求される事例が報告されています。
従来、日本の自動車メーカーは、アフターサービスの充実や修理費用を含めたコストパフォーマンスに強みを持っていることから、この点は大きな足枷になるといえます。
第3に懸念されるのは、エコシステム崩壊の恐れです。ギガキャストは、部品数と接合などの工数を減らすことで生産効率を飛躍的に高める反面、多くの部品が車両の組み立てにおいて不要となることから、部品メーカーとの取引が見直されることになります。
日本の自動車業界は系列化が進み、部品メーカーを多く抱えていることから、これまで築き上げた強固なエコシステムが崩壊する可能性があります。
自動車の生産は、従来型方式のインテグラル型に象徴されるように、複数の部品の組み合わせにより、すり合わせ技術による緻密なものづくりが実現されてきましたが、ギガキャスト(モジュール型)の導入により、強固なエコシステムが崩れ、日本のすり合わせ技術の優位性が失われる可能性も否定できません。
それゆえ、日本の自動車メーカーは、EV開発において新たなコア・コンピタンスを築くことができなければ、先行するテスラやBYDと効率性や生産性の面で後れを取ることになり、優位性を生み出すことは難しくなるでしょう。