最も責任があるのは総合電機メーカーの経営者たち

マスコミでは「日米半導体協定で米国政府の圧力に負けた」とする声が強いが、実際には、企業側の問題のほうが大きいといえる。

筆者が、半導体業界の中心にいた人たちに2004年から10年間かけて取材して整理したものが資料3である。「今だから話せる」と言って、当時の経営者たちの判断の誤りについて指摘した人が多かった。

エヌビディア』より

資料3にあるように、もっとも責任が大きかったのは、総合電機メーカーの経営者たちだったと言ってよいだろう。その理由について一言でいえば、半導体やそれを推進するITへの理解に乏しく、適切な経営判断ができなかったことが大きい。

もともと日本には半導体専業メーカーはほとんどなかった。ローム社以下、中堅の企業ばかりで、世界と戦えるほどの力はなかったといえる。日本の半導体産業を支えて、世界と戦ってきたのは、大手総合電機メーカーの半導体部門だった。ところが、その半導体部門は、総合電機メーカーにとっては一部門にすぎなかったのだ。

これが世界から見た日本の特殊性だった。他の国々では、唯一の例外のサムスンを除き、半導体専業メーカーがほとんどだったのである。

電機→ITの流れに気がつかなかった

総合電機メーカーの経営者が適切に判断できなかった背景の一つとして、半導体をけん引する市場が、電機からITにシフトしていったことにまったく気がついていなかったことが挙げられる。

半導体IC(集積回路)を購入する企業は、昔は総合電機メーカーがもっとも多かったが、IT機器を生産している企業に代わっていった。

半導体購入企業のランキングを見ると、かつては東芝やパナソニックやソニーなど、テレビ、VTR、ラジカセなどのアナログ機器メーカーが上位にいた。

昨今の半導体購入上位10社はスマホやパソコンなどのITハードウェア機器メーカーと、EMS(Electronics Manufacturing Service:電子機器の製造請負サービス)企業である(資料4)。これは、半導体購入企業が電機からITに代わったことを意味している。

エヌビディア』より

アナログ家電機器の多くはデジタル機器に替わり、台湾や韓国、さらには中国で量産されるようになった。その流れのなかで、日本の総合電機メーカーはデジタル化に大きく後れ、対処できなくなっていった。

このあたりの分析はかつて、東京大学ものづくり経営研究センターの藤本隆宏名誉教授(現在、早稲田大学大学院教授)のグループが詳細に行なっている。