だからコンピュータでも半導体でも負け続き

日本の総合電機メーカーのコンピュータ部門は、米IBMを追いかけ、先端というべきメインフレームコンピュータで競争をしていた。通商産業省(現・経済産業省)も同様で「日本が勝つためには先端技術を磨くこと」という信念を持っていた。

コンピュータ分野は、先端技術の粋といえるメインフレームやスーパーコンピュータのような技術でリードすることこそ、国の経済を引っ張ると考えていた。経済産業省は、今でもそのように考えているふしがある。

日本では、世界をリードするための「第5世代コンピュータ」プロジェクトが進められたが、世界のコンピュータ業界は、先端コンピュータより使いやすいコンピュータを求めるダウンサイジングの動きに向かっていた。

しかし、経済産業省も各総合電機メーカーもこの動きに乗れなかった。その結果、コンピュータ分野での世界競争に敗退し、半導体も敗退したのである。

それにもかかわらず、総合電機メーカーの経営者たちは、「半導体の業績が悪いから会社の業績が悪い」と喧伝していた。マスコミはこの言葉を信じて、半導体は斜陽産業であり、いかに抜け出すかが総合電機メーカーの飛躍につながると報道した。

「半導体=斜陽産業」

経営者たちの言葉を信じたがゆえに「半導体=斜陽産業」という図式がマスコミのなかにでき上がってしまった。実際には、半導体は斜陽産業などではなく、単に経営者たちがIT化への動きに鈍感だっただけなのだ。

大学生や大学院生の親たちもマスコミの情報を真に受けて、「半導体企業には就職しないほうがいい」と考えたようだ。こうした風潮を半導体の研究をしていた教授たちは苦々しく思っていた。

半導体研究室を卒業した優秀な若者たちは、専門分野を学んだにもかかわらず、“斜陽産業”の半導体関連の企業に就職することを避けて、金融やコンサルティングなどのサービス産業に従事することが増えていった。

IT機器の生産で後れをとった日本は、IT機器をベースにしたデジタルサービスの波にも乗り遅れた。

新型コロナ流行の時、感染者数の報告としてファックスを使って情報をやり取りしているという報道に、世の中の人たちは愕然としたことだろう。

普通のビジネスパーソンやオフィスワーカーなら、当たり前のように電子メールで顧客や顧客になりそうな潜在顧客とやり取りをしている時代である。一部の役所や地方自治体などは特に遅れているようだった。