歴史的に拷問の方法として用いられた「断眠」

そして、人体による“検証”も、実は古くから行なわれています。

そもそも「断眠」は、歴史的に「拷問」の方法として用いられてきました。つまり、人は眠ることができない状態が長く続くと苦しくなり、また、意志が弱くなり、自白をさせやすくなることが知られていたのです。

昭和の時代のテレビドラマや映画などでは、警察署での取調べの際、朦朧となった容疑者が「眠らせてください!」と懇願する姿が描かれることもありました。

もちろん、人権上、そんなことが許されるわけがありませんが、戦前は行なわれていたそうです。ナチスも、断眠を拷問の手法に取り入れていました。

科学的な意味での最初の「断眠実験」は、1898年に行なわれています。

3人の男性が90時間、眠らないようにさせられたところ、集中力がなくなり、さまざまなテストの点数が悪くなり、幻覚に襲われるようになります。ところが、実験終了後、彼らは12時間眠ると、すべての症状はなくなりました。

眠っていると自覚していなくても、脳の一部はきちんと眠っている

1955年、ラジオ番組の司会者だったピーター・トリップという人物が生理学者と協力し、自らが被験者となる長時間「断眠の実験」をすることにしました。

彼はニューヨークのタイムズ・スクエアに立ち、のべつまくなし、不眠で話し続けます。トリップは200時間起きていたのですが、4日目ころから幻覚や妄想が出はじめ、次第にそれが激しくなりました。

このときの彼の脳波から、起きているにもかかわらず、ときどき2~3秒間続く睡眠波が測定されました。この現象は「マイクロスリープ(微小睡眠)」と名づけられ、この波の存在は、人間を完全に断眠させることは難しいことを示しています。

201時間の断眠を経験したトリップですが、実験を終えて、13時間眠ったあとは完全に回復し、幻覚などはまったくなくなりました。

また、ギネスブックに載っている断眠の世界記録保持者、英国のモーリン・ウェストン婦人は、1977年に449時間、つまり18日と17時間も眠らずにいました。彼女も幻覚を訴えましたが、その後10時間眠ると、完全に回復しています。

このことから、断眠によって体内から失われる物質や、逆に溜まる老廃物質があったとしても、約10時間の睡眠をとることで、脳の機能は回復すると考えられます。

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そして最近の研究では、「私たちが眠っていると自覚していなくても、脳の一部はきちんと眠っている」ことがわかっています。

この「脳の一部が眠っている」状態のとき、脳に溜まった物質は分解されると考えられます。つまり、眠れない状態が続いていたとしても、私たちの脳内では「眠っている場合に行なわれる回復作業」が、ちゃんと行なわれているのです。

このことは、「眠れないこと」に悩む人にとって、朗報かもしれません。