「うま味」と「旨味」は違うもの

日本人の多くは、「うま味」と「旨み(旨味)」の言葉の使い方をまちがえています。うま味と旨みは、同音異義語です。同音異義語とは、発音が同じで意味が異なる2つ以上の単語のことです。

たとえば、「性格と正確」、「医師と意志」、「柿と牡蠣」、「伯父と叔父」、「魚介類と魚貝類」、「うま味と旨み(旨味)」などです。「魚介類」は水産動物の総称ですが、「魚貝類」は文字どおり魚類と貝類を指す言葉です。

うま味と旨みには、どのような意味の違いがあるのでしょうか。

「うま味」の表記は、甘味、酸味、苦味、塩味といった基本味の一つを指します。

一方、「旨み(旨味)」は食べ物がおいしいことを意味する言葉です。「旨い」の名詞形であり、うま味とはまったく異なる意味になってしまいます。

たとえば、肉のおいしさを表現する場合は、「肉は熟成するとうま味物質が増えて、旨みが増強されます」が正しいのです。うま味は、英語でも“Umami”。旨みは“Deliciousness”あるいは“Palatability”と表現されるため、英語圏の人たちが混同することはありません。

日本人だけが昔から区別せずに使ってきたために、混同しているのです。

「うま味物質」を入れすぎると“おいしくない”ワケ

うま味は、1908年に東京帝国大学理学部の池田菊苗博士により、こんぶに含まれるグルタミン酸ナトリウムが示す味として世界で初めて見いだされました。

その後、うま味物質として、小玉新太郎博士により、カツオ節から「イノシン酸」が、國中明博士により、干ししいたけから「グアニル酸」が発見されました。

また、グルタミン酸ナトリウムとイノシン酸やグアニル酸の組み合わせで、2つのうま味物質が存在すると、うま味の強度は相加的ではなく、相乗的に強められることが明らかにされ、現在の「うま味調味料」が開発されました。

調理するときに、調味料であるうま味物質を使うと料理がおいしくなるので、うま味と旨みは区別されずに使われていました。

しかし、2002年に人の舌上からうま味物質であるグルタミン酸ナトリウムのグルタミン酸と結合する「うま味受容体たんぱく質」が発見され、うま味物質によって認知できる「うま味」が、おいしさではなく、第5の基本味であると科学的に証明されたのです。

これにより、「うま味」と「旨み」は同音異義語になりました。

うま味物質は香りがないので、単独ではけっしておいしいとはいえません。うま味物質は塩や砂糖と同様、調味料です。

すまし汁にうま味物質を添加する場合、0.3%前後の濃度で添加するとすまし汁のおいしさ(旨み)が強くなりますが、0.9%以上の量を添加するとおいしさ(旨み)が急激に低下します(図表4)。

うま味物質の入れすぎで“おいしさ”が急減 「うま味物質(グルタミン酸ナトリウム)の添加量とおいしさ(旨み)との関係」

これは、塩を入れすぎると「しょっぱすぎる」、砂糖を入れすぎると「甘すぎる」ように、うま味物質を入れすぎると「旨すぎる」わけではなく、うま味だけが強くなって「うま味すぎる」状態となり、おいしくなくなるのです。

うま味物質は、食べ物に適量を添加することでおいしくなりますが、入れすぎると食べ物の味わいをだいなしにしてしまい、「旨み」は感じられなくなります。