おいしさの評価が分かれるのは、なぜなのか。女子栄養大学の西村敏英教授は「人間は食べ慣れたものをおいしいと感じる。過去に食べたことがなければ評価基準がないので、正しく評価できていない可能性がある」という――。(第1回)

※本稿は、西村敏英『おいしさの9割はこれで決まる!』(女子栄養大学出版部)の一部を再編集したものです。

和食の朝食イメージ
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評価の高い店なのに“おいしくない”と感じる理由

皆さん、友だちとレストランに行って同じメニューを頼んだとき、その食べ物のおいしさの評価が違っていたことはないですか?

また、グルメ雑誌で紹介されていた行列のできるラーメン店に足を運んだときに、わくわくした気持ちで長時間並んで食べたラーメンがおいしくなかったという経験はないでしょうか。

おいしさを決める要因は、「口に入れる前に感じる香りや色」、「口に入れたときに感じる味、香り、食感」などたくさんあります。

同じ食べ物を食べれば、食べた人全員が同じ刺激を口腔こうくう内や鼻腔びくうで受けるので、おいしさに関しては同じ評価になるはずです。しかし、実際には、食べる人によっておいしさの評価が違っています。

「旨い」や「おいしい」の評価は、食べ物の素材によって決まる客観的な要因に加えて、食習慣、食文化、価値観などの個人によって異なる要因が最終的な判断にかかわっているのです。

食習慣や食文化による要因は、離乳後の食生活の影響を受けます。乳幼児からの食生活や味つけは、家庭によって違います。

したがって、私たちは小さいころ経験してきた食生活により、知らず知らずのうちに、食べ物のおいしさを学習しており、自分がおいしいと感じる評価基準(ものさし)が作られていくのです。

「おふくろの味」はなぜおいしいのか

みそ汁などで、「おふくろの味はおいしい」という表現が使われますが、これは小さいころから食べ慣れてきた塩加減や風味づけなどを最もおいしいと感じることを意味しています。

また、高級食材を使用した料理を食べたことがなければ、その料理に対するものさしがないので、正しい評価ができない可能性があります。

ある大学の教授が大学生を対象に、高価なようかんとスーパーで購入した安価なようかんの食べ比べをして、「おいしいようかんを選ぶ」という実験を行ないました。

多くの学生は「安価なようかん」のほうを選びました。これは、ふだんから食べ慣れている安価なようかんのほうが「おいしい」と判断したからです。

食べ物のおいしさを決めている味も、学習によって区別できるようになります。

中学2年生を対象に五基本味を識別できるかどうかを調べた研究では、酸味の正解率のみが81%と高い割合を示しましたが、甘味は51%、苦味とうま味は39%、塩味では34%しか正解できませんでした(図表1)。

【図表1】中学生の五基本味の識別正解者の割合
中学生の6割超は「塩味」が識別できなかった 「中学生の五基本味の識別正解者の割合」

酸味と甘味の識別率はいずれも5歳児と同程度、塩味は5歳児より低い正解率でした。

大学生になっても、うま味の識別はむずかしいことがわかっています。これは、日ごろから、五基本味を学習するチャンスがないからです。味の基準もふだんの食生活で意識して学習しないと正しい評価基準は確立できません。

子どもには小さいころからいろいろなものを食べさせて、食べ物のおいしさを評価できる評価基準を作ってあげてください。それが、好き嫌いをしないことにもつながります。