「おいしさ」は機械で測れるのか
皆さん、食べ物のおいしさを機械で測ることはできると思いますか? おいしさを決める要因の中で、食べ物の味を測定する味覚センサーや、香りを測定する嗅覚センサーが開発されています。
味覚センサーは食べ物から抽出された味物質を含む溶液を用いて、五基本味の強さを測定する分析機器です。センサーは、舌の味刺激を受ける部分を模倣した脂質膜でできており、味物質がセンサーの脂質膜に結合すると電位の違いが発生して、味の刺激の強さを測定できます。
センサーには、脂質膜の違いにより、苦味、甘味、うま味、塩味、酸味の五基本味と渋みの6種類があります(図表2)。
近ごろは、このセンサーでコクの要素である「味刺激の持続性」を測定できるとされており、さまざまな場面で利用されています。嗅覚センサーは、ゴミの不快臭の強度を測定する分析機器として実用化されています。
しかし、食べ物のおいしさを評価する場合には、1つの食品に1000種類ほど存在する香り物質の識別と、官能特性との関連づけが必要なので、人の官能特性を反映できるセンサーの開発はむずかしく、いまだに実現していません。
味覚センサーで「ビール」の違いがわかる
おいしさを決定する重要な要因には、味以外にも香りがあります。
食べ物を食べたとき、脳では味覚と嗅覚の刺激が相互作用し、統合された感覚として最終的に認知されます。そして、これまでの食経験で作られている評価基準(おいしさのものさし)と比べられ、食べ物のおいしさの程度を判定しています。
したがって、味覚センサーや嗅覚センサーが、味や香りの強さをそれぞれ客観的に測定できたとしても、人が判断するおいしさの評価をすることは、現段階ではできないと考えられています。
しかし、これらのセンサーは、食品開発の現場ではおおいに役立っています。
食べ物から抽出された味物質や放出される香り物質の種類や量を測定できるため、同じ食品に関するメーカーによる違いを示したり、あるいは食品製造において、いつも同じ基準の製品が作られているかをチェックしたりする品質管理の現場で利用されています。
たとえば、味覚センサーはビールや水の味の比較に利用され、銘柄の異なるビールやミネラルウォーターの違いを区別できることも示されています(図表3)。
このように、センサーは世の中で食品開発や品質管理の現場で大活躍していますが、人がおいしさを評価する官能評価にはまだまだ及びません。皆さんは、食べ物のおいしさをセンサーの評価に頼らず、自分の五感で判断してくださいね。