※本稿は、西村敏英『おいしさの9割はこれで決まる!』(女子栄養大学出版部)の一部を再編集したものです。
食べ物の味わいは“口の中で感じる香り”が強める
食べ物のおいしさにはさまざまな要因がかかわっていますが、味わいの中でも特に香り(口中香:食べ物を口の中に入れたあとに感じる香り)が重要です。
私たちは食べ物の味わいを、「味、香り(口中香)、食感などによる総合感覚」として感じています。食べ物を口に入れた瞬間、あるいは嚙んでいるときに、これらをほぼ同時に感じるので、味、香り(口中香)、食感などを個々に区別することは非常にむずかしいのです。
また、味と香り(口中香)は、互いに影響し合って、味わいを強めていることがわかってきました。
香りが味の感じ方を強める例として、バニラビーンズが知られています。バニラビーンズに含まれているバニリンという甘い香りの物質が、甘味の感じ方を増強させるのです。
これを利用しているのがバニラアイスクリームで、バニラビーンズの甘い香りによって、甘さがより強く感じられます。このほかにも、レモンの香りが酸味の感じ方を増強させることや、磯の香り物質が塩味の感じ方を増強させることも明らかになっています。
香りを利用すれば“おいしく減塩”できる
近ごろ、私たちの研究から、味物質が香り(口中香)の感じ方に影響を与えることもわかってきました。
チキンスープを連想させる4つの香り物質を水にとかした「チキンの香り水」。この水に、うま味物質を添加すると、「チキンの香り水」の口中香の感じ方が2.5倍強められ、味わいも強められることがわかりました(図表1)。
このように、脳で認識している味と香りの感じ方は互いに影響し合っているのです。味と香りが互いに作用をして、味わいを強める現象には、連合学習と呼ばれる経験が必要であるといわれています。
チキンスープには、鶏肉のうま味物質がとけ出しているために、鶏肉の「香り」とうま味物質による感じ方が調和して脳に記憶されているので、互いの感覚を強め合うことができるのです。
この現象をうまく利用すれば、食べ物の減塩を実現できます。食べ物の味つけのさいに、食塩を減らしてうま味物質を適量添加すれば、より少ない食塩の添加量でも食べ物の味わいを強く感じられるため、おいしく減塩することができるのです。
また、みそ汁を作るときに、香りの強いねぎやなめこを入れると、食塩(みそ)の添加量が少なくても満足感が得られ、おいしく感じられます。
ほかの料理でも、香りを強めるくふうをすることで、食塩の添加量を減らしてもおいしく食べられることがわかってきました。味と香りの相互作用をうまく利用して、食べ物の減塩を実現してみませんか。