「とろみ」がおいしさを強めてくれる
食べ物で「とろみ」のあるものは多くあります。たとえば、料理ではカレー、シチュー、ポタージュ、麻婆豆腐、八宝菜、あんかけうどんなど。野菜ではオクラ、モロヘイヤ、山芋など。調味料ではケチャップ、マヨネーズなどです。
「とろみ」とは、液体に粘度がある状態を指します。また、ケチャップやマヨネーズのような「とろみ」のついた液状食品は、専門用語で、「非ニュートン流体の食品」と呼ばれています。
離乳食や介護食等で「とろみ」をつけるのは、口の中で食べ物がまとまって飲み込みやすくなり、ゆっくりとのどから食道に流れるので、誤嚥防止効果があるためです。
また、通常の料理では「とろみ」により、食べ物のおいしさを感じやすくすることができます。
食べ物に「とろみ」をつける素材は、かたくり粉や小麦粉のでんぷん、キサンタンガムやフコイダンなどの多糖類が知られています。
調理の手法として、あんかけうどんなどのように、めんなどのほかの食材に調味液やだしをからみやすくするために「とろみ」をつけたり、温かい汁物をさめにくくしたりする目的で使われます。
そのほかにも、「とろみ」が増すことで酸味、苦味、渋みが弱く感じられる一方で、料理の香りの感じ方も抑制されてしまうことがわかっています。
「とろみ」があるとコクを強く感じるワケ
「とろみ」のある食材や料理を食べると味わいが持続して、コクをより強く感じることが知られていますが、そのメカニズムはわかっていませんでした。
そこで、増粘剤であるキサンタンガムで濃度の異なる「とろみ」をつけた複数の溶液に香り物質を添加したあとに試飲し、これらの溶液から感じられる「香り(鼻先香※1あるいは口中香※2)の強さ」、「香り(口中香)の広がり」、「香り(口中香)の持続性」を調べました。
※1 鼻先香 食べ物を口に入れる前に、鼻で感じる香り。
※2 口中香 食べ物を口に入れたあとに感じる香り。
とろみのない場合と比較すると「香り(鼻先香)の強さ」は、0.10%、0.20%、0.40%のキサンタンガム溶液間で有意差は認められませんでした。
しかし、「香り(口中香)の強さ」は、いずれの溶液でも強くなりました。また、「香り(口中香)の広がり」も0.10%と0.20%の溶液では、強くなりました(図表6)。
「香り(口中香)の持続性」は、いずれの濃度の溶液でも強くなることが明らかとなりました(図表6)。
「とろみ」で「香り(口中香)の持続性」が上昇する理由を解析しました。キサンタンガム添加溶液での香り物質の放出量は、無添加溶液と比べて、有意に低下することが明らかとなりました。
これは、「とろみ」が強くなると、香り物質の食べ物からの放出がおさえられていることを示しています。
つまり、「とろみ」のついた食べ物では、「とろみ」に閉じ込められた香り物質が食べているときに徐々に放出されるため、食べ物の味わいの持続時間が長くなり、コクが強められると考えられます。