「公認にふさわしいかの議論は選対で」
8月26日の読売新聞世論調査では、総裁選で特に議論してほしい政策や課題について聞いている。「経済対策」が29%で最も多く、「年金など社会保障」が23%、「少子化対策」が14%、「政治とカネ」が14%、「外交や安全保障」12%、「憲法改正」4%だった。
だが、総裁選を前に始まった議論は「政治とカネ」という内輪の問題だった。石破氏が8月24日の出馬表明で「ルールを守る自民党を確立する」と語ったうえで、派閥の政治資金規正法違反事件で4月に党紀委員会による処分を受けた議員らの公認の是非については「公認にふさわしいかの議論は選挙対策委員会で徹底的に行われるべきだ」と述べ、非公認の可能性にも言及したのだ。
不記載議員は党所属議員の2割に当たる82人で、党はそのうち2018年から5年間で500万円以上だった39人(うち安倍派36人)を処分した。岸田首相が一連の政治とカネの問題の責任を取って退陣し、総裁選で新生自民党の中身を議論するとの絵を描いたにもかかわらず、石破氏はこの問題を蒸し返したと言える。
河野氏も続いた。26日の出馬表明の記者会見で、政治資金収支報告書に不記載があった議員に対し、「不記載の金額を返還(返納)してけじめとする」との独自の見解を明らかにした。「(返還で)けじめがつけば、党の候補として国民の審判を仰ぐことになる」とも述べ、選挙で公認する考えを示した。だが、法的根拠や返還先も明確ではなく、思いつきをそのまま口にしたという印象は否めない。
石破、河野両氏の発言は、小林氏が8月11日のフジテレビ番組で、党の処分を免れた安倍派議員らまで党や国会のポストから外している現状を修正すべきだと主張し、党内外から批判されたことを意識したのかも知れない。
党紀委員会の処分は「一事不再理」
石破氏の公認問題発言に対しては、二階派事務総長だった武田良太元総務相が8月26日配信のインターネット番組で「一事不再理という言葉があるように、党紀委員会で決定された処分を再度新しい組織にかけるべきではない」と述べ、疑義を唱えた。
武田氏自身は不記載額1172万円で、党の処分で党役職停止1年となったが、「皆さん社会的制裁も受けてきたし、有権者にお詫びをして、その教訓を胸に抱きつつ、次の時代の国家をどう考えていくのかということにシフトしなければいけない。この問題の対応を続けることが国益になるとは思わない」とも指摘した。
石破氏は、翌27日に党本部で記者団に「公認権は総裁が持っている。国民にどういう判断をしたか、その所以を説明する」と語ったが、二重処罰の禁止という一事不再理の原則を理解しているようには思えない。党紀委員会による処分には「選挙の非公認」というカテゴリーもある。それより軽い処分を受けた議員もその対象にするのか、という疑問にも答えられていない。
河野氏の返還発言に対しては、党役職停止6か月の党処分を受けている衛藤征士郎元衆院副議長(安倍派)が27日、河野氏と会い、「不記載となった派閥からの還付金は個人が汗をかいて集めた資金だ。返還しろと言っても、どこに返還するのか」と疑問を呈した。安倍派の議員の気分を表したものだろう。
茂木幹事長は27日の記者会見で、6月に成立した改正政治資金規正法は不記載分相当額の国庫納付を例外的に認めているが、「過去に遡及することはなかなか難しい」と述べ、河野発言に否定的な考えを示した。
これに対し、河野氏は28日のテレビ朝日の番組で、政治資金収支報告書の不記載額を議員が派閥に返還した上で、派閥が解散する時に国庫に納付すべきだとの考えを改めて示したが、党内外の共感を得られていない。