毒親に育てられた女性が結婚した相手も実は両親から冷遇されていた。育児に疲れた女性は精神のバランスを崩し、夫に「死にたい、別れたい」と漏らすと、その後、信じられないような言葉が返ってきた。結局、女性は、自宅と現金600万円と子供1人当たり月8万円の養育費を得ることになった――。(後編/全2回)
【前編のあらすじ】中部地方在住の白柳幸美さん(仮名・30代)の両親の仲は悪く、同居している父方の祖母に母親がいじめられていても、父親も祖父も庇わない。唯一白柳さんが庇うが、なぜか母親は「余計なことをしないで」と反応する。そんな母親は、白柳さんの交友関係に口を出し、複数の習い事を白柳さんに相談することなく無理やりやらせたりやめさせたりし、学業や運動で良い成績を収めても褒めることはなかった。それどころか、「あなたは顔が良くないから、せめて勉強や運動ができないとお嫁に行けない」と蔑んだ。

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青天の霹靂

大学卒業後、上京して医療系の仕事をしていた白柳さんは2年後、大学の部活で出会い、交際していた2歳上の男性と結婚。仕事を辞め、夫が暮らす街で新婚生活を始めた。

白柳さんは結婚後、すぐに試験を受けて公務員になり、28歳で長男を妊娠。産休・育休を取得して出産すると、1年後には仕事に復帰。夫は家庭よりも仕事に情熱が傾きがちな白柳さんを理解し、応援してくれた。

その4年後、白柳さんは長女を妊娠し、32歳で出産。夫は最年少課長に抜擢されながらも、長男の時も長女の時も育休を1カ月取得し、家事育児に協力。傍目にも白柳さん的にも、幸せな生活を送っていた。

ところが、長女出産から半年ほど経った頃、白柳さんは、長男の赤ちゃん返りと長女の夜泣き、帝王切開で出産した傷の痛みに悩まされていた。頼みの綱の夫は仕事が忙しいらしく、朝早くに出かけ、毎晩日付が変わるか変わらないかギリギリの時間に帰宅。大学進学以降、距離を置いている両親には頼れず、義両親との仲も良いとは言えなかったため、孤軍奮闘していた。

「散らかった部屋で長女は泣き、長男は相手にされない寂しさから泣き、私も自分の無能さに毎日泣いていました。それでも夫が帰宅するまでには涙を拭き、アイスノンで目の腫れをとって夕飯を用意していました」

どんなに部屋が散らかっていても、夫は白柳さんを責めることはなかった。しかしそのことが、白柳さん自身が自分を責めることに拍車をかけた。

さらに2カ月ほど経った頃、帰宅した夫に白柳さんは言った。

「私は変だと思うし、もう無理だから、離婚して。私は1人で死ぬから、いい人見つけて幸せになって」

夫はしばらくフリーズしたあと、これまで支えてくれた感謝の言葉と、それを伝えられなかった謝罪を口にし、

「キミのことは本当に大切に思っているんだよ。むしろ、俺がダメ人間だから、キミはもっと他の良い人と一緒になった方がいい……」

そこからはお互いに「そんなことない」と褒め合い、抱き合って泣いた。

しかし最後に夫が言った。

「でも、俺が言ったこと、ちゃんと考えておいてね」

白柳さんは鳥肌が立った。

泣いている女性に指を指して相対している男性
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです

翌朝から白柳さんは、夫のことを考えた。

長女が生まれて半年くらい経った頃から、夫は仕事が忙しそうだ。表情も暗いし、食べる量も減っている。「子どもたちを預けて、たまには2人で出かけよう」と誘っても、「子どもたちがかわいそうだから」と言って拒まれた。

白柳さんは、「夫こそうつ病なのではないか?」と思い至った。だからその週末の夜、夫から「話がある」と言われた時、「仕事を辞めたい」という相談だと信じて疑わなかった。

子どもたちが寝静まった夜、夫は重い沈黙の後、口を開いた。

「実は俺、不倫してる」

夫は涙ぐみながら、「ごめん」と何度も繰り返した。