白柳家のタブー

筆者は家庭にタブーが生まれるとき、「短絡的思考」「断絶・孤立」「羞恥心」の3つが揃うと考えている。

白柳さんの育った家庭には、父方の祖父母との同居が始まって以降、険悪なムードが漂っていた。その頃の白柳家の大人たちは、皆自分のことしか考えておらず、余裕がなく、思考停止し、「短絡的思考」に陥っていたと想像する。そんな家庭から早く離れたいと思っていた白柳さんは、「この家庭はおかしい」という羞恥心にも近い感情を抱いていたのではなかったか。

幼い白柳さんにとって最も近い存在だった母親は、外に働きにいきながらも、父親からは子どもたちの教育を丸投げされ、同居している義両親の手前、家事の手抜きもできずにいた。世間体を気にしすぎる性格の母親は、誰かに相談することもなく、1人で苦しんでいたのではないだろうか。結果、長女である白柳さんにストレスをぶつけてしまい、白柳さん自身も、父親をはじめ、家の中の大人を頼ることができず、かといって学校の教師や友人に相談することもなく、自分で考え自分で答えを出す癖がついていたのだろう。そんな一見精神的に強く自立した女性である白柳さんに、弱く依存気質の元夫が惹かれるのも無理もない。

壁に手をついてうつむいている男性のシルエット
写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz
※写真はイメージです

元夫の父親は、男尊女卑の考えに凝り固まっており、仕事はするが毎晩のように飲み歩くため、飲み代が家計を圧迫。母親はパートに出るが、すぐに「合わない」と言って長続きしないため、生活にゆとりはなかった。両親は毎日のように激しい夫婦喧嘩をし、元夫と3歳上の兄と2歳下の妹はいつも怯えていたという。

そんな3人きょうだいの中でも、白柳さんの元夫は両親から冷遇されていた。他の2人は歯科矯正を受けさせてもらえたが、元夫だけされない。他の2人は親が奨学金の返済をしてくれたが、元夫だけは自分で返済。他の2人は両親への仕送りなど強要されていないのに、元夫だけされていた。元夫はいわゆる「搾取子」だった。大人になり、白柳さんとの家庭を築いた後も、自分を冷遇し続ける両親との関係を断ち切れず、言いなりになり続けていた元夫は、両親と共依存関係に陥っていた。

一方、白柳さんは育った過程で培われた自己肯定感の低さから、夫を過大評価し続けてしまった。過大評価は2人の間にある問題を見えなくし、放置し続けてしまったことで大きく成長し、不倫という最悪の形で噴出したのだろう。

不倫は「短絡的思考」から発生し、「断絶・孤立」を招く最たる行為だ。残酷なことに、白柳さんは、自分で築いた家庭でもタブーを発生させてしまった。

だが、現在の白柳さんは、新しい家庭を築き、前向きに暮らしている。

「離婚した後、シングルマザー生活に加え、職場復帰した途端の異動先でパワハラに遭い、うつになって休職しました。その時に心理カウンセリングを受け、母が毒であったこと、その根っこには父の問題があったことに気づきました。少しずつ『私は悪くない、よくがんばっていた』と思えるようになると、自己肯定感が回復し始め、元夫には言えなかった『こういうところを直してほしい』という自分の意見や要望を伝えることや夫婦喧嘩などが、今の夫にはできるようになっていました」

白柳さんは元夫と離婚後、結婚相談所に登録。3年間の交際を経て、2024年1月に入籍した。仕事面では、2022年9月に公務員を退職し、心理学を学び、2023年10月に不妊や夫婦関係を専門とする心理カウンセラーとして起業。夫婦関係に悩んでいた頃、同じように悩む女性のブログを読んで気づきを得たり、救われたりした経験から、2021年からブログを始めている。

「母の影響を強く受けて、私は自己肯定感が低く、自分軸ではなく他人軸で生きるようになっていました。世間体を気にしすぎるところも母の影響だと思います。また、過去の私が母にされていたように、他の人に対するイライラを、その人に言えない代わりに子どもにぶつける……ということを私もやってしまったことがあります。でも、今は母と適切な距離を置くことで、母の支配的なものから逃れ始め、子どもにイライラをぶつけることもなくなりました。しかし、母の影響から完全に逃げきるのは、まだまだ時間がかかると思います」

白柳さんは母親の支配や影響から少しずつ逃れ、抗いながら、自分の人生を歩きはじめている。

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