「足りないところを補うチームを作る」
その麻生氏を横目に、菅氏が動き出す。翌28日に都内で二階俊博元幹事長に会い、「進次郎をよろしく」と初めて支援を依頼したのだ。二階氏は「オーッ」と応じ、同席していた武田氏ら二階派幹部らに小泉陣営の態勢を調えるよう指示したという。
総裁選は、永田町の「貸し借り」の総決算の場だ。菅氏は安倍晋三政権の官房長官、菅政権での人事や便宜供与を通じて「貸し」が多く、菅グループ、無派閥、各派横断で小泉氏を支援する中堅・若手を含めて第1回投票で60票前後の議員票は固めた、といわれる。
その小泉氏は9月6日の出馬表明で、「自民党が真に変わるには、改革を唱えるリーダーではなく、改革を圧倒的に加速できるリーダーを選ぶことだ」と述べ、改革保守派の立場を鮮明にした。経験不足や言葉が軽いなどの批判には「私の足りないところを補ってくれる最高のチームを作る」と強調する。
政治とカネの問題では、茂木氏に追随して党が所属議員に支出する「政策活動費」を廃止するほか、派閥の政治資金規正法違反事件に関与した国会議員を選挙で公認するかどうかは「地方組織や地元有権者の意見を踏まえた上で厳正に判断する」との見解を示した。
小泉氏も石破氏同様に一事不再理の原則を軽視しているが、「地方組織の意見」を踏まえれば、非公認との結論は出にくい。まして、「首相になったら、できるだけ早期に衆院を解散し、国民の信を問う」と言うのだから、候補差し替えの余裕はないという政治的計算も入っているのだろう。
そのココロは「反菅」「反茂木」
小泉氏は当初、総裁選初挑戦に消極的で、菅氏は石破氏擁立を考えていた。だが、小林氏が6月、世代交代を掲げて出馬に意欲を示すと、小泉氏に心境の変化が現れたという。菅氏に近い筋は「小泉はコバホーク(小林氏)が出なかったら出なかった。菅さんもそのまま石破を支援していただろう」と明かす。
小林氏が党の派閥を基礎にした政権運営に批判的に切り込み、中堅・若手を動員するなど、果たした役割は小さくないのだろう。
こうした状況を見据え、今回の決選投票で影響力を行使するだけでなく、その先のキングメーカーの一角をうかがおうとしているのが岸田首相にほかならない。
自民党の憲法改正実現本部は9月2日、自衛隊明記と緊急事態条項創設について党の条文案が前提となることを確認した。首相は総裁選を前に「議論を振り出しに戻すことはあってはならない。到達点をピン留めして、そこから先を目指す努力を続けなければならない」と言明した。石破氏が唱える憲法9条2項削除論を念頭に、議論に枠をはめたものだが、これも存在感を示す一環なのだろう。
岸田首相は、岸田派から林、上川両氏を総裁選に出馬させるが、決選投票ではまとまって行動しよう、と派内で打ち合わせている。そのココロは「反菅」「反茂木」らしい。「岸田降ろし」を仕掛け、小泉氏の後ろ盾になっている菅氏、政権を機能不全に陥れた茂木氏は許せない。石破氏にテコ入れしたい、との意向も伝わってくるが、派内外に「石破アレルギー」も強く、総裁選の雌雄を決するかどうかは見通せていない。