寿司を「職人だけの世界」ではなく「ビジネス」に

くら寿司の創業は1977年にさかのぼる。創業者であり現社長の田中邦彦氏は、もともとお酢メーカーで営業をしていた。そこから回転寿司チェーンを興したきっかけは、いわゆる町の寿司店への営業活動だったという。

「当時、田中が担当だった寿司店は白木のカウンターに大理石の床と、かなり立派な店舗がありながら、売り上げのほとんどを出前でまかなっていたそうです。田中はこの点がもったいないと感じ、食材の提案などを通してもっと利益を上げられるとアピールしたそうですが、なかなか職人さんに聞き入れていただけなかったといいます」

この経験から寿司の大きなポテンシャルに気付き、寿司を「職人の世界」ではなく「ビジネス」に変化させようとスタートした出前寿司店が、くら寿司のルーツだ。

その後、くら寿司は全ネタさび抜きや、ラーメンメニュー、寿司のイメージからは遠いコーヒーやパフェといったメニューの提供など、今では回転寿司の当たり前となったさまざまな要素を打ち出していき、寿司を身近に楽しめる業態として、回転寿司を不動の地位まで底上げしていった。

撮影=プレジデントオンライン編集部
ほこりや飛沫、ウイルスから寿司を守る「抗菌寿司カバー鮮度くん」。カバーの開閉動作は、レーン上部のカメラが画像認識しており、迷惑行為をすぐに検知する

廃棄率が15%→2%に

寿司を職人の世界から、もっと身近なものとする上では業務効率化や標準化も欠かせない。くら寿司では業界にテクノロジーの波が押し寄せる以前から「科学的な運営」(辻氏)を掲げ、さまざまなシステム化を行ってきた。

例えば、一般的に回転寿司を運営する上では、客の空腹状況やレーンに流れている寿司の状況を見ながら、次にどのような商品を流すか、常に気を付ける必要がある。いわば、職人の勘や経験の世界だ。

一方、くら寿司では、入店時に客が入力する情報(人数や大人、子供など)や、これまでのビッグデータを基にした「製造管理システム」を1998年から取り入れている。これは、客が着席したそれぞれのテーブルで予想される食事量を10分単位に区切って算出するものだ。

「私が入社したころは、まだ店舗スタッフが目視でお客さまのテーブルに積んである皿を数え、レーンに流す寿司の量の参考にしていました。しかし、ある時期に廃棄率が高まってしまった。ここから、トヨタのジャストインタイムのような、必要なタイミングに必要な量を出せるようにできないか、と開発したのが製造管理システムです。滞在時間と合わせてお客さまの状況を把握し、レーンにどんな商品を、どれくらい流すか決めています」

2011年の寿司カバー導入と合わせさらに進化させた製造管理システムは、現在AIカメラを活用し、客がとった皿の枚数だけでなく、寿司の種類まで判別できる。

製造管理システムとこのAIカメラの相乗効果で、適切な補充が可能となり、これまで12~15%あったという廃棄率は、今では2%まで大幅に減少している。だからこそ、一般的に非効率とされるレーンに寿司を流す、回転寿司本来の醍醐味を維持できているわけだ。