DX本部の役割

また、回転寿司に限らず、飲食チェーンは店舗によって、店長の力量などが売り上げ成績を左右することもある。そのため、いかに店舗ごとのブレをなくしたり、何かあった際にフォローしたりする仕組みを構築するかも、効率化には重要な視点だ。

この点について、くら寿司では1997年ごろから、インターネットを使って各店舗をモニタリングするシステムを導入していたというから驚きだ。

今では各チェーンが導入している、注文用のタッチパネルも、くら寿司が業界に先駆けて2002年に導入したという。

こうした数々のシステムはすべて自社開発だという。取り組みの裏には、システムの自社開発やイノベーションを推進する部署の存在がある。例えば、DX本部はその一つだ。

DX本部の特徴は、ITの専門知識を持った人材だけでなく、店舗のホールや厨房経験者、店長経験者といった「現場」を知っているメンバーも在籍していること。

辻氏は「もちろん専門知識も必要不可欠ですが『これをしたら、こんな問題や結果が出る』といった、現場ならではの知識も重要だと考えています」と話す。

くら寿司・辻さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
「弊社のシステムは自社開発にこだわっています。そもそも、運営の重要なシステムのほとんどは、90年代末(会社設立初期)に社長のアイデアを元に開発したシステムがベースとなり進化しています」(くら寿司・辻さん)

1997年にQRタグを導入

現場発のアイデアから生まれたものとして、客がテーブルにあるポケットに入れた皿を、洗い場まで水路で運ぶ「皿カウンター水回収システム」がある。もともと、清掃の効率化と「積み上がった皿を見られるのが恥ずかしい」という女性客の声を基に発案したシステムだ。

「通常、皿を洗い場まで自動で運ぶシステムを業者さんに相談すると、まずベルトで運ぶといった案が出てくると思います。もちろん、それは間違いではありません。

しかし、現場視点で考えると、食べ終えた皿をただベルトで運ぶのでは、匂いがこもってしまいますし、衛生面でも問題があります。何かシステムを考える際は、常にこうした現場視点を持っているのが、私たちの独自性であり、強みかもしれません」

もちろん、システム化はあくまで効率良く運営するためのものであり、それだけでは客がくら寿司を選ぶ要因にはなり得ない。冒頭で書いた通り、2023年に各チェーンで多数の迷惑行為が露見し、回転寿司の衛生面に関する視線はこれまで以上に厳しくなっている。

この点についても、くら寿司は以前からシステム化を駆使してきた。

1996年、学校給食で「O157」の集団感染が発生し、外食にも衛生管理に関する厳しい目が注がれた。くら寿司は、翌97年に田中社長主導の下で「時間管理制限システム」を導入。

以前から、レーンを流れる寿司が乾いていないか、1時間に1回確認する体制をとっていたものの、人の目で確認していたためどうしても限界があった。そこで、皿にQRタグを付け、読み取ることで定期的に鮮度を維持する仕組みを構築したという。