福岡県を中心にとんこつラーメンを展開する「博多一幸舎」は7月、プロデュース店では初となる海外店舗をタイにオープンした。店長の内川智貴さんは月給15万円だった日本の飲食店を辞め、海外に飛び出したという。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんがバンコクに飛び、直撃した――。
ウインズジャパンホールディングスが今年7月にオープンした「幸ちゃんラーメン」のバンコク店
筆者撮影
ウインズジャパンホールディングスが今年7月にオープンした「幸ちゃんラーメン」のバンコク店

「もう海外で働くしかないと思って」

福岡出身の内川智貴は35歳。タイに来て6年目だ。4年前、バンコクに博多の料理を主とする居酒屋を出し、その後、焼肉、カラオケ、タイ料理、美容院と次々に新店をオープン。今では9店舗を経営している。年商約7億円、年収は1億5000万円だという。

最も新しい店が今年の7月にオープンしたとんこつラーメンを出す「幸ちゃんラーメン」のバンコク店。幸ちゃんラーメンは博多一幸舎グループがプロデュースするマイルドとんこつのチェーンである。

7月10日記事〈なぜ福岡で「豚骨ラーメン離れ」が起きているのか…「ニオイがしないラーメン」を開発した博多一幸舎創業者の決断〉参照

内川は福岡の高校を出た後、バンクーバーへ。ワーキングホリデーの制度を利用して現地の日本料理店で働いたら、1カ月で80万円の報酬をもらった。

内川は「びっくりですよ」と語った。

「日本に戻ってから飲食店に勤めたら、1カ月で15万円でした。それからはもう海外で働くしかないと思って、アメリカへ行ったり、中国で働いたり。お店の立ち上げばかりをやっていました」

タイにやってくる前はボストンにいた。知人から頼まれラーメン店をオープンさせたのである。タイに来たのは、他人の店ではなく自分の店を持とうと思ったからだ。

焼肉、カラオケ、美容院経営などで年商約7億円を売り上げる内川さん。東京よりも距離が近い福岡を訪れるタイ人が多いことから、バンコクでは博多料理店が増えているという
筆者撮影
焼肉、カラオケ、美容院経営などで年商約7億円を売り上げる内川さん。東京よりも距離が近い福岡を訪れるタイ人が多いことから、バンコクでは博多料理店が増えているという

なぜタイで日本料理が増えているのか

「タイでは日本食のレストラン、特に居酒屋、ラーメンがブームだと聞いたからです。それで店を開いたのですが、すぐにコロナ禍になってしまい、大変でした。今はコロナを乗り越えたところです。タイではまた新店が数多くできています。

幸ちゃんラーメンは開店して1カ月ちょっとですけれど、今のところはお客さんに支持されてます。なんといってもタイには日本人がたくさん住んでます。まずその人たちがやってくる。それから日本食が好きなタイ人、そして、日本人観光客が主なお客さんです。あとは、この勢いをどうやって継続させていくかですね」

外務省の調べによれば2023年10月時点で、タイに暮らす日本人の数は7万2308人。ただし、現地の大使館に在留届を出していない人間もいるから実数ではおよそ10万人とも言われている。また、タイへ行く日本人渡航者の数は2023年が80万人だった。

そして、日本食が好きなタイ人の数は上記よりさらに多いと推測できる。なぜなら、日本に来るタイ人観光客は2023年で約100万人。今年はさらに増える見込みだ。多くのタイ人は日本各地を旅行して、さまざまな日本料理を食べている。タイで日本料理店が続々オープンしているのは日本へ行ったことのあるタイ人の数が増え続けているからだ。