「ハリガネ」を注文する通? の人も

内川はこう言っていた。

「うちの店(幸ちゃんラーメン)では日本と同じように麺の茹で方を4段階でオーダーできます。『やわ、普通、カタ、バリカタ』の4段階です。『普通』で頼むタイ人が多いのですけれど、なかには『ハリガネ』とか『コナオトシ(粉落とし)』とオーダーする若いタイ人もいるんです。ハリガネとか言うのは『オレは福岡に行って、本場のとんこつラーメンを食べたことがあるんだぞ』というアピールでしょう」

タイにおける日本料理店の増加は数字にもあらわれている。

タイ国内で日本料理を提供する店の数は5751店。前年度(2022年)から8.0%の増加だ。日本料理のジャンルは懐石料理から寿司、うなぎ、てんぷら、居酒屋、ラーメンなどほぼすべての料理店がある。そのなかで、特に増えているのがラーメン、すき焼きしゃぶしゃぶ、居酒屋、焼肉の専門店だ。(Jetro「2023年度 タイ国日本食レストラン調査・店舗数調査」)

数が増えているから各店舗の競争は激しくなっている。それでも内川は幸ちゃんラーメンを開いた。それは日本で同チェーンを展開している博多一幸舎グループの社長、吉村幸助をよく知っていたこと、そして、彼自身が、おいしいとんこつラーメンを毎日のように食べたいと思ったからだ。

バンコク店の「豚骨ラーメン(190バーツ)」。福岡ではおなじみの青ねぎときくらげはトッピングで追加できる。円換算で一杯855円と日本よりも少し高い価格設定になっている
筆者撮影
バンコク店の「豚骨ラーメン(190バーツ)」。福岡ではおなじみの青ねぎときくらげはトッピングで追加できる。円換算で一杯855円と日本よりも少し高い価格設定になっている

とんこつ離れの日本と違ってタイでは人気

「吉村さんは中学校(福岡市立柏原中学校)の先輩で、福岡に帰ったら時々、会っていたんです。吉村さんから『バンコクで店を出さないか』と言われたので、やることにしました。それと、僕自身、とんこつラーメンが好きだからやりたいと。居酒屋も焼肉もカラオケも自分が好きだから始めたんです。ただし、美容院は違います。スタッフがやりたいというので、やることにしました。

今、バンコクには350店のラーメン店があるらしい。そのうちの4割くらいがとんこつラーメンじゃないかな。タイ人はとんこつラーメンが好きなんだと思います。たとえば、バンコクには味噌ラーメンの専門店ってないんですよ。ラーメン店のメニューのひとつに味噌ラーメンはあるけれど、専門店は聞いたことがない」

店内の様子。味だけでなく、内装も日本の店舗と大きく変わらない
筆者撮影
店内の様子。味だけでなく、内装も日本の店舗と大きく変わらない

日本料理のレストランが続々とオープンしている理由はもうひとつあると内川は言った。

「バンコクのような都市にはラオス、ミャンマーから出稼ぎに来ている人が多い。僕は9店舗やっていますが、各店舗にいる日本人はひとりだけであとはラオスとミャンマーの人たち、そしてタイ人です。

今、日本で、とんこつラーメンの店を出そうと思っても人は集まりません。ところが、タイでは人が集まります。実際、幸ちゃんラーメンのキッチンでラーメンやチャーハンを作ってるのは全員、ミャンマー人です。教えたら、すぐに調理ができますし、みんな熱心です」