レトルトのタイカレーを日本で最初に発売し、シェア1位のヤマモリ(三重県桑名市)は、20年前にタイに工場を建設し、地元食材を使ってレトルト商品を作っている。他の食品大手が日本の食材を使用する中、なぜ高い投資をしてでも現地製造にこだわるのか。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんがバンコク工場を取材した――。

日本の食材でもタイカレーは作れるが…

三重県桑名市にある老舗企業、ヤマモリは醤油、レトルト製品、タイフードの製造販売をしている。従業員が802人で、売り上げは275億4000万円(2024年3月期)。

同社を大きく成長させたのが現会長の三林憲忠だ。三林は2000年にタイの人々が食べているスパイシーなゲーン(汁物)を「タイカレー」と名づけて売り出した。グリーン、レッド、イエローのタイカレーをレトルト製品として発売し、今ではタイカレーにおいて日本国内ではナンバーワンシェアを誇る。

調味料メーカーとして1889年に創業したヤマモリは、現在タイカレーのレトルト製造・販売でシェア1位の地位を築いている
筆者撮影
調味料メーカーとして1889年に創業したヤマモリは、現在タイカレーのレトルト製造・販売でシェア1位の地位を築いている

同社が出しているタイカレーはタイにある工場で作っている。

会長の三林に聞いた。

「なぜ、わざわざ現地工場で作るのか」

すると、彼はこう答えた。

土壌が違う日本では「本物の香りと味」が出ない

「本物のタイカレーは現地でなくてはできないからです。インドカレーのレトルト製品を作るのであれば日本国内でできます。インドカレーはドライスパイス、ドライハーブで作るから日本でもできる。

ところがタイカレーは生のハーブを入れないと独特の香りが出てこない。私はタイカレーを作る以上、本物でなくてはいけないと思ったので、大きな投資をして現地に工場を作りました。ですから、うちのタイカレーは香りが違います。味も違います。

実は日本でもタイのハーブを栽培してみたのですが、気候と土壌が違うから本物の香りや味が出てきません。レモングラス、コブミカンの葉、小さなナス(スズメナス)は現地産の生でなくてはダメです」

タイカレーに欠かせないハーブ類の一つ、コブミカンの葉。中身は使わず、葉と果皮のみ入れる
筆者撮影
タイカレーに欠かせないハーブ類の一つ、コブミカンの葉。中身は使わず、葉と果皮のみ入れる

現在、日本ではさまざまなタイカレーの製品がスーパー、コンビニに並んでいる。そのうち、現地工場でレトルトのタイカレーを製造しているのはヤマモリだけだ。他のレトルトタイカレーは日本国内で製造している。いくつか購入して食べ比べてみたが、確かに香りの点ではヤマモリ製品に一日の長があるような気がした。

では、実際の工場の様子はどうなっているのか?

そこでタイへ出かけることにした。むろん、自腹である。