「タスクの切り替え」は生産性を40%低下させる

またザック氏は、タスク・スイッチングは生産性を40%も低下させ、そのうえ脳が収縮する原因にもなる、と主張しています。短時間に高速でスイッチングを行うと、脳がオーバーロードし、灰白質(「脳は『先延ばし』をするようプログラミングされている」の項)が収縮するとも指摘しています。

つまり平たく言うと、脳はひとつのことにしか集中できないのです。

すぐやる脳』(サンマーク出版)をここまで読み進めてきてくださったあなたなら、もう納得いただけることでしょう。もともと脳は、働き者でも一途な性格でもない、省エネ志向の臓器です。

「ひとつのことしかできない」と言われても、もはや驚かないはずです。

また、「マルチタスクをしたくなるのは、脳が新しい刺激を欲しているから」という説もあります。

「本筋のタスク」に飽きかけて、なかなか刺激が感じられなくなったとき、報酬を予想して出る「報酬予感ホルモン」ドーパミンの分泌は悪くなります。すると、脳は新たな刺激を与えてくれそうな「他のタスク」をめざとく見つけ、そちらからドーパミンを得ようとして「他のタスク」に新しく取りかかり始める、というわけです。

つまり、脳とは新しい刺激に対して、ある意味、非常に“貪欲”なのです。

マルチタスクをやりすぎると認知症を招くリスクも

「マルチタスクをしたくなる自分って、もしかして優秀なんじゃないか」
「マルチタスクって、いい脳トレになりそう」

そう思いたくなる気持ちはよくわかります。けれども実際は、「本筋のことに集中できないから、他のタスクに取り組みたい」という欲求がひそんでいるケースが多いのです。

したがって、「マルチタスク」の誘惑にかられたら、本筋の作業に飽きてきた証拠かもしれません。休憩をとるなど、気分転換をはかったほうがよいこともあります。

なぜ私がこれほどまでにマルチタスクをおすすめしないかというと、脳が通常よりも疲れてしまい、多くのエネルギーを消費してしまうからです。エネルギーを使うということは、当然全身の疲労にもつながります。

身近な例で言えば、「歌詞つきの音楽を聴きながら、勉強(デスクワーク)をする」というスタイルも、おすすめできません。脳は「ひとつずつ処理をする」という「シングルタスク」を好むからです。

また、マルチタスクをしようとすればするほど、ストレスを過度に感じることになります。ストレスがたまると、ストレスホルモンであるアドレナリンや、コルチゾールが大量に分泌されます。

その結果、「マルチタスクを習慣化していると、認知症の発症リスクが上がる」。そんな驚くべき研究結果も報告されています。