※本稿は、菅原道仁『すぐやる脳』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
「Siri」は人間の脳には不向き?
「こまめにやる、早めにやる」ことを目指した結果、限られた時間内にさまざまなタスクを処理しようとして、作業の同時進行に挑む人がいます。
いわゆる「マルチタスク」というスタイルです。
忙しすぎる現代人の欲望を見透かしたかのように、さまざまなデジタルデバイスが登場しています。
たとえば、ヴァーチャルアシスタント「Siri」が強化された「Apple Watch」。そして、「Siri」とリンクさせて使えるワイヤレスイヤホン「AirPods」などです。
私はこれらを実際に試したことがあります。けれども、非常に困難に感じました。
たとえば、掃除中に「天気を教えて」と尋ねて、答えが返ってきたとしても、掃除を継続しながら理解をするのは難しいこと。必ずといっていいほど、掃除の手を止めてしまいます。
誤解のないよう申し添えておくと、私は新しいデジタルデバイスやソフトやアプリ、ゲーム、家電製品を取り入れることが大好きです。大勢の開発者たちの“叡智の結晶”に触れることに、喜びすら感じます。
だから「Siri」などのヴァーチャルアシスタントには大変期待をしています。しかし、脳科学の専門家として言わせてもらうと、脳は「ひとつずつ処理をする」という「シングルタスク」を好むのです。
「車の運転」はマルチタスクではないのか
この話をすると、よく「車の運転」を引き合いに出した反論をいただきます。
車の運転は、さまざまな作業の集積です。前方を見るだけではなく、バックミラーにも気を配り、ギアを動かし、脳はフル回転を強いられます。
「車の運転とはマルチタスクである。多くの人が車を運転できているのだから、人はマルチタスクが得意なはずだ」、そんな理屈で反論されるのです。
けれども厳密に言うと、車の運転とは、シングルタスクの積み重ねにすぎません。
一見、マルチタスクをこなしているように見えるかもしれませんが、ひとつひとつの作業を「スイッチ」(切り替え)している、というほうが正確でしょう。
さらに言うと「マルチタスクが得意」という人の大半は、「脳のスイッチを高速で切り替えているだけ」ということがほとんどです。
脳がマルチタスクに向いていない点について、多くの専門家が指摘をしています。
たとえば2015年、アメリカのビジネス誌『Entrepreneur』では、デヴォラ・ザック氏が次のような論を展開しています。
「皆さんがマルチタスクと呼んでいるものは、神経科学者の言うところのタスク・スイッチングです。複数のタスクを短時間で行き来しているのです」