古代中国の兵法書にもあるハニートラップ

中国による諜報・工作活動の手法でしばしば取り沙汰されるのが、「ハニートラップ」(甘い罠)だ。元々、旧ソ連の国家保安委員会(KGB)の得意とする工作活動であり、高級売春婦などを使ってターゲットを陥れ、情欲を発端に脅迫や懐柔によって協力者として獲得するものである。

中国情報機関もKGBに負けず劣らずこの方法を駆使している。そもそも、中国兵法書『六韜りくとう』には「厚く珠玉をまかない、たのしましむるに美人をってす」「美女喚声を進めて、以ってこれを惑わす」とある。『兵法三十六計』にも「美女の計」がある。中国の古典では、女性の誘惑により政権が崩壊に至ったことがしばしば描かれている。つまり、ハニートラップは中国の伝統的な常套手段なのである。

FBI捜査官も手玉に取られた

2003年、最大級のハニートラップ事件が発生した。カトリーナ・レオン(中国名・陳文英)という中国系米国人女性が、中国の国家安全部の指令の下で、米連邦捜査局(FBI)捜査官二人と性的関係を結んで米側の機密情報を窃取し、それを中国に流していたのである。

レオンが注目されるようになったのは、1997年11月の江沢民こうたくみん国家主席(当時)の初訪米時である。江は、ロサンゼルスの中国系米国人コミュニティの年次晩餐会に主賓として招待された。その時、通訳と司会進行役を務めたのがレオンであり、その後ロサンゼルスの中国系米国人社会で名声を博するようになった(デイヴィッド・ワイズ著『中国スパイ秘録 米中情報戦の真実』原書房)。

この件は、中国情報機関の国家安全部が、背後でレオンに対して中国要人との人脈形成を支援していたことを物語っている。