浮上した中国の軍需関連企業との関係
筆者は、AがBの影響下にあると見て、Aに対するヒアリングやAの同意のもと、私用携帯電話のメール解析などを行った。その結果、BはAにX社の人事情報の提供と重要技術を扱う人物の選定を依頼していたことが判明した。
Aによれば、「Bは勤務する中国企業Z社の指示のもと、ハイライトの人物のいずれかに接触を試みようとしていた。X社の重要技術に興味を示していた」という。また、Bに指示をしたZ社は、設立の経緯から中国の軍需産業関連の企業と極めて深い関係にあったことが判明している。
結局、X社は警察に通報することはせず、自社内での処分で本事案を終結させた。
複数の関与者や関係企業を重ねてアプローチ
この事案は次のことを示唆している。まず、「レピュテーション・リスク」(企業に対する否定的な評価や評判が広まることによって、企業の信用やブランド価値が低下し、損失を被る危険度)を恐れる企業は、警察への相談や公表を躊躇する傾向がある。特に、本事案のように営業機密の漏洩といった直接的な損害が出ていない場合はなおさらである。
そして、中国は複数の「レイヤー」(関与者や関係企業など)を重ねて情報窃取を画策するために、全容解明は困難を極める。中国による技術窃取が実際に起こっているとしても、その実態を解明するためには複数のレイヤーの相関関係などを分析する必要がある。
しかし、民間の不正調査ではこのような観点が不足することが常であるため、中国の関与を特定することは一般的に困難である。そのため、警察も事件を認知せずに、事件が“事案”で終わってしまうのが現状である。